おやすみ、いってらっしゃいお弁当

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 息子のお弁当は、今日も冷蔵庫で寝かされている。    中身は昨日、息子に頼まれたオムライス弁当だ。夕飯に作ったチキンライスにスクランブルエッグをのせ、おかずも少し詰めた。  冷蔵庫から出してお弁当を温めるべきか悩んだ。先回りして行動すると、彼はたいてい怒る。  朝にお弁当を作る習慣は、いつからか夜になった。私は宵っ張りのフクロウ族で早起きが何より苦手だ。部活の試合で早朝にお弁当がいるときは起こしてくれと言ったら、だったらいらない金をくれと言う。毎度コンビニの昼食というわけにもいかないので、夜にお弁当を作って冷蔵庫に入れておくことにした。  出勤時間が迫っている。息子はトイレから出てこない。   「高校どうすんのー」    私が玄関で声を上げるとトイレの中から「うーん」と声が聞こえた。靴箱に置いた時計を見ながら仕事用の靴を履く。 「休むんやったら高校に電話してや」 「うーん」  出てくる気配はない。いつもなら電子レンジで温めたお弁当をリュックに入れる時間なのに、まだ冷蔵庫に入っている。  私は閉じたままのトイレの扉に「行ってきます」と声をかけて家を出た。    案の定、出勤中に高校から電話がかかってきた。息子が高校に来ていないと、若い担任の先生が言う。  休憩時間、家に戻ったら息子の靴があった。私は二階に向かって声を上げる。 「おーい、高校に電話しろて言うたやろー」 「うーん」  シンクには空になった弁当箱が置いてあった。腹痛はおさまったらしい。食欲があるならいいかと思いながら、カップ麺にお湯を注いだ。
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