おやすみ、いってらっしゃいお弁当

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 翌朝もお弁当は冷蔵庫で寝かされたままだった。「行くんかーどうすんのかー」と部屋をのぞくと、布団をかぶったまま「うーん」と返事した。  高校に欠席の電話をしたら「病院に行ってほしい」と言われた。明日から定期テストなので、追試を受けるには病院の領収書が必要らしい。  うんそうですね。そりゃそうですね。あっさり病院に連れていけたら理想ですね。ものすごく嫌がるんですよね、と考えた。息子には担任に言われたことをそのまま伝えた。  定期テスト一日目、電子レンジで温められたお弁当がスタンバイしていた。毎朝腹が痛いと言ってトイレにこもるのに、チキンカツの残りを入れてほしいと言われていた。温まった衣の匂いをかぎながら、病院に行ったとして何と言えばいいのやらと思う。  その日は高校に行って空の弁当箱を持って帰ってきた。テスト二日目も食べて帰ってきた。  三日目、持って行ったはずのお弁当が冷蔵庫に戻っていた。部活を休んで帰ってきた息子が「明日食べるから置いといて」と言う。  さらに翌日、お弁当は冷蔵庫に入ったままだった。息子も部屋から出てこない。  夕方、彼は自室でお弁当を食べたようだった。  冷蔵庫に残されたお弁当を見るたび、母親なら朝に詰めなおすべきだろうと誰に言われるわけでもない叱責が頭に浮かぶ。夫とは「無言で残した息子が食べるべき」と意見が一致している。  おかずは作ったものが半分くらいで残りは既製品に頼っている。揚げ物系のいくつかは冷凍食品の方がおいしいと言われ、言われた通りに入れている。  煮物が続くと嫌がる。白米そのままだと「何もないの?」みたいな顔をされ、ふりかけをかけると文句を言う。梅干しがいいと言われて毎日入れたら「もういらない」と言われた。そのたび、だったら自分で好きなものを詰めたらいいのにという気持ちと、お弁当は母親が持たせるものという葛藤が入り混じる。
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