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「だ、だから、なんて言えばいいかわかんないけど、あたしね……!」
きっと。
彼女は予想していなかったはずだ。もちろん俺だって想像なんかしていなかった。
真っ黒な影の少女が――思い切り、髪の長い少女を突き飛ばすなんてことは。
「え」
不幸だったのは、その橋の手摺が非常に低いものだったこと。
周囲に、僕以外の目撃者がいなかったこと。
そして多分、彼女が友人を信じすぎていたことだろう。
「なん、で、りか……」
胸を思い切り押された少女の体が手摺を乗り越え、川の方へと落下していく。俺の目に、その姿はスローモーションのように映った。長い黒髪が夕焼けにキラキラ光って、肉感的な若い太ももが空中を蹴るように掻いて、腕が足掻くように彷徨って。
刹那。
ばしゃん!
彼女の体は、下の川へ落ちていた。その時俺ははっきり見たんだ、彼女が落ちた時に突き出していた岩に思い切り頭と腕をぶつけたことを。首と右腕がおかしな方向にねじ曲がったところを!
何より、それはとても小さな川で、水深は非常に浅かった。それが災いした。落ちた人間の衝撃を吸収してくれるような深さではなかったんだ。
「がぼ、ごぼっ……がばっ……!」
多分、水深は彼女の腰の半分くらい。水の速さもそこまでじゃない。その気になれば立って歩くことも泳ぐこともできるくらいのものだっただろう。
でも彼女は、水の中で無様にもがいていた。赤い色が岩に付着していて、水の中にも少しだけ溶けだしているのが見えた。多分、落ちた時に当たりどころが悪くて、結構酷い怪我をしてしまったんだろう。
「あは、あはは、は」
浅い川で溺れていく友人を見つめながら黒い影は――大きく口を開けて、ゲラゲラと嗤っていた。
「あははは、はは、はははは、あははははははははははははは、はははははははは、はははははははははははははっ!ははははははははははははははははは、はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
彼女の壊れたような笑い声は、落ちた少女が溺れて動かなくなるまで続いたんだ。
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