黒い影のアネット

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黒い影のアネット

 世の中にはさ、いろーんな特殊能力を持っている人間がいるんだと思うんだよね。  いわゆる、異能力ってやつかな?  その一部が超能力と呼ばれていて、やれサイコキネシスだとかテレポートだとかマインドコントロールとかにカテゴライズされて研究されてるんだと思う。でも実際は、もっと細かい、まだ誰も知らない不思議な能力がたくさんあるんじゃないだろうか。で、それに気づかずに、能力を眠らせたまま生涯を終える人もたくさんいるってことだと思ってるわけ。  え?なんで突然そんな話を始めたのかって?  私と付き合うことにした理由が知りたかったのになんでって?  まあまあ、落ち着いて最後まで聞いてくれって。これは、その件を語るのに重要不可欠な話なんだから。  結論を先に言うと、俺も異能力者ってやつだったわけ。  自分で自覚なんかなかったし、子供の頃は己が特別だなんて一ミリも思ってなかった。普通に戦隊ヒーローが好きで、ラノベが好きで、アニメとゲームが大好きな子供でしかなかったからね。何か変だなーって思ったのはそれこそ大学生になってからのことだったわけ。  大学生当時、俺はポスティングのアルバイトをしてた。  イベントとか会社とかのチラシをかたっぱしからポストに入れていく仕事。大学の終わりにそのままチラシを家に取りに帰って、もしくはそのまま持ってきてたチラシをリュックに入れて指定されたマンションや団地を回るってなわけだな。足は使うし疲れるっちゃ疲れるけど、ポストに投函するだけだからすごく楽で小銭稼ぎにはちょうど良かったんだよね。  でさ。そんなポスティングのアルバイトしながら町を歩きまわってた頃だったかな。  あれはそう、アイスクリーム屋の前だったはず。その店、ショッピングモールに入ってるタイプじゃなくて、アイスクリーム屋単体で建物があって、駐車場があって経営してるーみたいなかんじだったんだけど。  そのアイスクリーム屋の前にさ、変なものが見えたんだ。 「な、なんだありゃ……」  俺はその時、道路を挟んで向かい側のマンションにチラシを配ったところだった。なんとな道路の向こうを見てぎょっとしたってかんじ。  何があったと思う?  真っ黒な――頭からつま先まで真っ黒な人間が立ってるんだ。よく見ると口のところだけ赤くて、口がそこにあることだけはわかるんだけど。それ以外はもう、顔も、首も、手足も、胴体もみーんな黒。それも生半可な黒じゃない、光をほとんど反射しない漆黒の闇ってかんじの色なんだ。  まさか、オバケか何かなのか。俺はオバケが見えるようになっちゃったのか。  戦々恐々としてると駐車場に停めた軽自動車から女の人が降りてきた。茶髪のちょっとギャルっぽいお姉さんは、まったく気にする様子もなく黒い影に近づいていく。まさか、見えてないのか?あれがやばいものだって気づいてないのか?俺が固まっている中、彼女は黒い影の前に立ってこう言ったんだ。 「ごめん、やっぱ車の中に落ちてた。座席の下の方に入っちゃってたみたい、財布」  はい?と思っているの僕の目の前で、口以外真っ黒な影も答えたんだ。 「そうかよ。ったく、気を付けてくれよ。変なところに入っちまったら事故の元なんだからな」  聞こえてきたのは、特におかしなところも何もない、普通の若い男の人の声だったんだ。
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