黒い影のアネット

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 ***  ぽかーんとしてしまったさ。  だって女の人は、そのまっくろくろすけみたいな人影と普通に喋ってるんだから。 「今LINE来たけど、やっぱミサトは遅刻確定だって。まああの時点で起きたんじゃ間に合うはずもないけど」 「あいつほんと寝坊してばっかだよなあ。俺らとの約束だから待っててやるけど、仕事の時どーすんだよ」 「ほんとにねー。こんなに頻繁に遅刻してたんじゃクビまっしぐらだと思うんだけどねー。あたしだっていつもモーニングコールしてあげられるわけじゃないしさー」  まあ、遠かったから切れ切れしか聞こえなかったけど、多分こんなかんじの会話だったと思う。  で、暫くカップルだか友達だかわかんないやり取りをした後で、そのままフツーにアイスクリーム屋に入っていきました、とな。それも二人で手を繋いで。 「なんだってんだよ?」  びっくりしたのは俺の方。女性は、あの黒い影が親しい人間に見えてるんだろうか。  それとも、俺にだけ普通の人間がおかしく見えてるだけなんだろうかって悩んじゃったよなあ。  けど、答えはその場でわかるはずもない。だって、相手は道路挟んで向こう側のアイスクリーム店に入っていっちゃったんだし、俺の知り合いでもなんでもないし。  首を傾げるだけ傾げて、その日はそのままその場を後にした。多分何かを見間違えたんだろうって、その時はそう思ったんだけど。  まあ、わかる?その後の展開。  また見かけたわけだよ、真っ黒な影人間!  今度はそいつ、普通に駅に向かって歩いてた。真っ黒すぎて、男か女かもわかんねえ。正確には肌や服が黒塗りされているっていうより、人間に真っ黒なモヤがまとわりついてて何も見えなくなってるみたいなかんじなんだよな。だから髪型とかも体格もあんまよくわからない。多分その人はちょっとぽっちゃり系かな?ってかんじだったけど。  多分、そのへんにいる中年のおっさんとか、そういうのだったんだと思う。そいつは駅の券売機で普通にSuicaにチャージして、改札通って駅のホームに降りていった。信じられなくて何回も目をごしごし擦ったから間違いないと思う。  その後も、俺は何度か黒い人影を見つけたんだ。  マックの中でハンバーガー食ってる奴もいた。  女子高校生の集団に混じってる奴もいた。  イケメンの彼氏連れてるやつもいたし、小さな子供連れてる母親か父親っぽいのもいた。  で、段々と気づいたんだ。  どうやら、俺には特定の人間だけ黒塗りに見える能力があるらしい、と。少なくとも周りの反応的には、そいつらは他の奴らには普通の人間に見えるらしいからな。
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