黒い影のアネット

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 ***  まあ、つまりそういうこと。  俺が見ていた黒い影。その正体は紛れもなく普通の人間。ただし、これから誰かを殺そうと思ってる人間が、俺にはそういう風に見える――そういう能力だったってことなわけさ。  恐ろしいのは、黒い影になってる人間って思いのほか多いってこと。一日町を歩いていて、黒い影を見かけない日なんかほとんどねえんだよ。最低でも一人二人はうろついてる。そいつらがいつ人殺しを実行するのか、殺意を抱いたまま当面実行しないのかはわからないけどさ。でも、多分ああいうふうに見えるほどのものをため込んでいる人間は、いずれ殺人に手を染めてしまうってことなんだろうな。  何人か後をつけて調査したから間違いない。もちろん、俺が調査した人間全てがその日のうちに人を殺したわけじゃない。でも、恨みがつもって殺した奴もいる反面、多分これ通り魔だろうなーみたいな殺し方をした奴もいてさ。世の中普通の振りしたサイコパスって多いのかもなあって思ったらちょっと怖くなっちまったよ。  あ、それで、千夏(ちなつ)。  お前と付き合った理由だろ?――ああ、マジでごめん。お前の性格とか、親切なところとか、頭いいところとかは知ってるんだけどさ。俺、お前がどういう顔してるか未だにわかんないんだよね。  だから、興味沸いたっていうか。  まさか合コンの現場で出会えると思ってなかったし。  お前もライトな関係がいいって言ってたからさ、とりあえずそういうのも悪くないかなって。今?今本気で好きなのかって?ばっか、恥ずかしいだろ、言わせるなよな。  え?さっきお前が入れてくれたコーヒー?  は?  あれ、なんだろ。なんか、眠くなってきたんだけど。
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