発覚する1

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発覚する1

   ねえちゃんが妊娠した。どうすんだ、高校二年生。  気づいたのはぼくだ。  梅雨が明けたとたん始まった暴力的な暑さに、息を切らした塾帰り。今年の梅雨明けは例年よりちょっと早いらしい。夏休みまであとすこし。はやくエアコンの恩恵のあずかろうと家のドアを開けた。  「ただいま」あいさつは形式的。ドアを開けたら自然と口から出てくるもの。スニーカーを脱いで、どたどたと大股でリビングにむかった。ドアを開けると体中が一気に冷気に包まれた。リュックをおろすと、蒸し上がった背中がスースーする。 「はあー」  しばらくエアコンの下で目を閉じた。  ねえちゃんはふろ上がりで、バスタオルをターバンのように頭に巻いて、手にはモンスターエナジーを持っていた。  それはいい。でもいくらふろ上りだからといって、その格好はいかがなものか。ノーブラのキャミソール。ショートパンツ。姉とはいえ、中三男子は目のやり場に困る。  いや。  そこじゃない。  ぼくは動きを止めて、じっと見つめた。  なんだ、その腹。  ポッコリしてるよな。かなり。 「あっ」  凝視したぼくの視線に気づいて、ねえちゃんはあわてて手で隠したが、もうおそい。  その腹がなにを意味しているのかは中三男子だってわかる。目と口が自然とあいた。そして次の瞬間 「ママーッ!」  思わず叫んだ。まだ声変りの兆しもないぼくの声は大声を出すと甲高い。 「啓太、だまれー!」  ねえちゃんは、ぼくの口をふさごうと飛びかかって来た。 「うわっ」  ぼくはとっさによけた。ガタン! ゴツッ! テーブルやイスにぶつかる。落としたモンスターエナジーが転がっていく。ふたを開ける前でよかった。 「だって!」  ぼくは抵抗を試みた。 「だってじゃないっ!」 「ヤバいじゃんか、その腹! ママッ!」  ぼくとねえちゃんはつかみ合いになった。 「なに騒いでるの」  二階からママが降りてきた。たぶん洗濯物をたたんでいたんだ。 「ママッ! ねえちゃんが妊娠してる!」 「ダメ―!」  ふたりの声が重なると、どっちがどっちだかわからない。  ママはぽかんとした顔で突っ立っていた。じっとぼくの顔を見た後、視線をねえちゃんに移した。顔を見て、それから腹へ視線をおろす。  かくすように腹を抱えたねえちゃんの両手を、ぼくが後ろからつかんで大きく開いた。ばんざいされるネコみたいに。ポッコリとふくらんだおなかがあらわになった。 「ほら!」  目って、ほんとにまん丸くなるんだな。ママの顔を見てそう思った。それからママは大きく息を吸い込んで両手で口を覆った。  あんまり動かないから、そのまま石かなにかになってしまったのかと思った。ねえちゃんは観念したのかおとなしくなった。 「……な、なんで」  ようやくママはそのひとことをしぼりだした。 「……えっと、ヤ、ヤッたから?」  きまり悪そうにねえちゃんが言ったが、そういうことじゃないと思うぞ。  っていうか、ヤッたんだ。ねえちゃん、処女じゃないんだ。それもショックだ。なんだよ、もう大人になったのかよ。 「……い、いつ」  またもやしぼりだしたママのひとこと。 「ク、クリスマス?」  おかしい。おかしい。動転したママの質問もおかしいが、答えるねえちゃんもおかしいぞ。 「そういうことじゃなくて!」
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