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 ママの声に厳しさが増す。 「いやだあーーーー!」  ねえちゃんは、テーブルの上のリモコンやティッシュなんかをママにむかって投げ始めた。 「美結!」  ママがそれをよけながら、ねえちゃんを止めようとする。 「いやーーーー!」  ねえちゃん、大混乱。テーブルの上になにもなくなると、今度はソファのクッションや、新聞、果ては植木鉢まで手当たり次第に投げ始めた。  ガシャーン!  陶器が壊れて派手な音を立てる。 「美結! やめなさい!」  ママが押さえつけようとするけれど、ねえちゃんは止まらない。両手を振り回して大暴れする。 「いいかげんにしなさい!」  うわーー!  うわーー!  動物みたいに絶叫するねえちゃんとママは、正面からつかみあっている。腕や髪をつかんで、もはや取っ組み合いの大ゲンカだ。いつの間にかママも泣いていた。ママはドライで、ドラえもんの映画だって泣かないのに。どうしていいのかわからないぼくの涙腺も限界だった。  ダサい。泣くなんて。 「ねえちゃん! おなか!」  とにかくおなかは守らないと。ぼくはなんとか二人を引き離そうと間に割って入ろうとした。めちゃくちゃに振り回すねえちゃんの手が、頭や肩にぶつかったけれどそんなことに怯んじゃいけない。 「ねえちゃん! あぶない! おなかに当たるから!」 「はなせーー! ばかやろーー! ふざけんなーー!」  泣きわめくねえちゃん。いいかげんにしなさい、と押さえようとするママ。二人を止めようと割って入るぼく。修羅場、あるいはカオス。  しばらく三つ巴のバトルが続いたが、やがてねえちゃんはやがて力尽きてすわりこんでしまった。ぼくとママもようやく手を離した。  それでもねえちゃんは、まだ「ふぇー。ふぇー」と力なく泣いている。ぼくもママも涙でぐちゃぐちゃの顔でぜえぜえと肩で息をしていた。  あたりは、ひどいありさまだった。割れた食器と植木鉢。つぶれたティッシュの箱。リモコンから飛び出した乾電池。イスは倒れテーブルは位置がずれ、いろんなものが散乱していた。  まるで竜巻の襲来か、ゴジラの襲撃にでもあったようだった。 「ママー」  幼稚園児みたいに小さな声でねえちゃんが呼んだ。ママはずりずりと這いずってねえちゃんに近寄った。 「ママ。どうしよう」  ママはねえちゃんを抱きしめた。 「だいじょうぶ。みんなで一番いい方法を考えよう」 「ママ、こわい」  ねえちゃんは、ほんとうに幼稚園児になったみたいだ。  だいじょうぶ、だいじょうぶ。とママは呪文みたいに言いつづけた。  ぼくは無力だ。無力なぼくは、とりあえずねえちゃんがすわれるように、ソファの上をを片づけた。
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