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4
だいたいぼくが気づかなかったら、ねえちゃんはどうしていたんだろう。どこかの時点で話しただろうか。そうだろうな。そうだろう。そう信じたい。
死体遺棄。
そんなことばが頭をよぎった。たまにニュースになる。こっそりと赤ちゃんを産んで棄てるやつ。まるでゴミみたいに。
ねえちゃんはそんなことはしない。しないはず。絶対。たぶん。
気づいてよかった。この先どうなるにしても、ねえちゃんが犯罪者になることはない。
ねえちゃんにしたら、思いがけないバレ方をしたのかもしれないが、それでもよかったとつくづく思う。
ママは子育ての経験があるから安心だよな。
パパは。
……いいや。クソオヤジだもん。
夏休みまであと二日。ねえちゃんは学校へ行くのを辞めてしまった。
児童相談所の相談の結果は、おおむね検索通りだった。決めるのはねえちゃんだけれど。どの道を選ぶにしても、出産前後は学校は休まないといけない。自分で育てるとなったら休学あるいは退学。
退学だろうな。たぶん学校はゆるしてくれない。
「通信制に変える方法もあるんだって」
ケロッとしてるな。ねえちゃんの声が明るい。夕べ散々大暴れしてすっきりしたのか?いい気なもんだ。
「通信制?」
聞いたことはある。学校に通わなくていいヤツだ。単位を取ればいいヤツ。
「高二の一学期まで通ったとして、残りの単位はあと半分だって」
「子育てしながらでも、二年くらいで取れるんじゃないかって」
それならちゃんと卒業できるじゃないか。ママもちょっと肩の力が抜けたかんじがする。高卒であれば、進学にしろ就職にしろ中退よりもずっと道は開ける。
「そうなれば、自分で育てる選択肢も出てくるわよね」
なるほど。天からクモの糸が降りてきた。拾う神あり。
「どの道を選ぶにしても、美結が後悔しないようにね。ママは美結を助けるからね」
ねえちゃんはもらってきた母子手帳を、ぺらぺらとめくっていたけれど、その手を止めて手帳の表紙をじっと見つめた。
「うん。ありがとう」
「……ぼくも、なにか手伝えることがあったら」
クスっとねえちゃんが笑った。
「ガキンチョのくせに」
うるさいわ。自分だってガキのくせに。
「ごめんね、迷惑かけて」
急にしおらしくなられてもこまる。
「平気だよ、これくらい。ぼくは頭がいいから」
精一杯強がった。
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