1/1
前へ
/27ページ
次へ

 だいたいぼくが気づかなかったら、ねえちゃんはどうしていたんだろう。どこかの時点で話しただろうか。そうだろうな。そうだろう。そう信じたい。  死体遺棄。  そんなことばが頭をよぎった。たまにニュースになる。こっそりと赤ちゃんを産んで棄てるやつ。まるでゴミみたいに。  ねえちゃんはそんなことはしない。しないはず。絶対。たぶん。  気づいてよかった。この先どうなるにしても、ねえちゃんが犯罪者になることはない。  ねえちゃんにしたら、思いがけないバレ方をしたのかもしれないが、それでもよかったとつくづく思う。  ママは子育ての経験があるから安心だよな。  パパは。  ……いいや。クソオヤジだもん。  夏休みまであと二日。ねえちゃんは学校へ行くのを辞めてしまった。  児童相談所の相談の結果は、おおむね検索通りだった。決めるのはねえちゃんだけれど。どの道を選ぶにしても、出産前後は学校は休まないといけない。自分で育てるとなったら休学あるいは退学。  退学だろうな。たぶん学校はゆるしてくれない。 「通信制に変える方法もあるんだって」  ケロッとしてるな。ねえちゃんの声が明るい。夕べ散々大暴れしてすっきりしたのか?いい気なもんだ。 「通信制?」  聞いたことはある。学校に通わなくていいヤツだ。単位を取ればいいヤツ。 「高二の一学期まで通ったとして、残りの単位はあと半分だって」 「子育てしながらでも、二年くらいで取れるんじゃないかって」  それならちゃんと卒業できるじゃないか。ママもちょっと肩の力が抜けたかんじがする。高卒であれば、進学にしろ就職にしろ中退よりもずっと道は開ける。 「そうなれば、自分で育てる選択肢も出てくるわよね」  なるほど。天からクモの糸が降りてきた。拾う神あり。 「どの道を選ぶにしても、美結が後悔しないようにね。ママは美結を助けるからね」  ねえちゃんはもらってきた母子手帳を、ぺらぺらとめくっていたけれど、その手を止めて手帳の表紙をじっと見つめた。 「うん。ありがとう」 「……ぼくも、なにか手伝えることがあったら」  クスっとねえちゃんが笑った。 「ガキンチョのくせに」  うるさいわ。自分だってガキのくせに。 「ごめんね、迷惑かけて」  急にしおらしくなられてもこまる。 「平気だよ、これくらい。ぼくは頭がいいから」  精一杯強がった。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

105人が本棚に入れています
本棚に追加