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対決する1
腹をくくったら、ねえちゃんとママは一転明るい。楽しそうに出産の準備をしている。
「え? もう?」
「ちょっとずつ買っていかないと。早産になることもあるんだし」
さらっとママは言ったけれど、早産? 早く産まれるの?
「そういう可能性もあるから準備は早めにしておくのよ」
そういうものか。ぼくも病院でもらってきた「出産準備リスト」を読んでみた。
肌着。ベビー服。肌着とベビー服ってなにがちがうの? おむつ。おしりふき。おしりふきっておしりをふくの? ほにゅうびん。消毒液。ほにゅうびんって消毒するの?
わからないことだらけだ。
ねえちゃんとママは、西松屋でベビー服と肌着を買ってきた。
「ぽぽちゃんの服じゃないの?」
ぼくはそれを広げてみた。
「ちげぇよ」
こんなに小さいのか。
いや。この大きさのものがおなかに入っているのか。で、産むのか。なんだかショックだ。
「ねー、かわいいでしょう?」
ベビー服はやわらかいTシャツの生地みたいにふわふわだ。手触りがよくてついフニフニと握ってしまう。
「手垢つけるな」
ごめんなさい。頬ずりするところでした。白いのが二枚、クリーム色のが二枚、水色のが二枚。
「とりあえずこれくらいね」
「ええ? まだ買うの?」
「そうよ。一日に何回も着替えるんだから」
そういうものか。その意味は産まれてからよーくわかった。おしっこやうんちがもれたり、飲んだミルクをげふげふしたり。たいへんだな、赤ちゃん。
ねえちゃんの部屋には、日に日に赤ちゃんのものが増えていく。準備は着々と進んでいる。パパ抜きで。ママはパパをあきらめてしまった。ねえちゃんもママがいれば何とかなると思っている。
でも、それじゃダメなんだ。
二週間の夏期講習が終わり、塾はいつもどおり火曜と金曜の夜だけになったけれど、自習室はいつでも使える。家にいても、イマイチ集中できなかったりするから、昼間は自習室に行く。図書館は結構混んでいて、早く行かないとすわれない。そのために一時間も前から並ぶなんて本末転倒もいいところだ。その点、自習室は空きがあるし涼しいし、わからないことがあれば先生に聞きに行ける。サイコー。
そんなふうに午前中を過ごしたぼくは、近くのマクドナルドで淳といっしょにお昼を食べていた。お昼のセットを注文し、二階席へ上がった。
なるべく端っこの席を陣取り、半分ほど食べたところでおもむろに話を切り出した。
「パパをなんとかしようと思う」
淳のおとうさんとうちのパパはぐうぜんにも同じ会社だ。二人で話していて判明したのだ。
だからパパの不倫疑惑は、淳経由で淳パパにも伝わっている。そしてその不倫相手は淳パパの部下だったという驚くべき事実! 部署内ではうっすら噂にはなったらしい。が、パパも木村彩花という不倫相手もうまく立ち回ったあげく、噂自体うやむやになったという。
そっちはうまくやるんだな。腹の立つ!
「確固たる証拠がなくてのらりくらりとかわすんだってさ」
腹の立つ! だが「うやむや」は「うやむや」でしかない。完全に立ち消えたわけじゃないのだ。
「だからさ、子どもの出番なわけよ」
そう言ったぼくに、淳は首をかしげる。
「ぼくの言うことなんて所詮子どもの戯言だ。証拠なんてどうでもいい。言ったもの勝ちさ。でも確実にダメージは与えられる」
「……どうやって」
淳が眉をひそめる。
「相手の女に会いに行く」
「ど、ど、どこに?」
「……会社に」
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