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4
赤ちゃんは、二千四百五十グラム、四十九センチ。産まれるのがちょっと早くて、体がちょっと小さい。でも元気だ。異常もなかった。よかった。ギリギリ早産なので保険適用。
「親孝行ねぇ」
様子を見にくる看護師さんが口々に言う。産まれた瞬間からほめられるぼくの甥っ子。生まれながらに優秀な? 甥っ子。
小さくて軽くて、簡単に壊れそうなぼくの甥っ子。それなのに泣き声は大きくて、ぼくの指をギュッとつかむ力は結構強くてびっくりした。みんなで散々大騒ぎして、泣いて笑ってけんかして、ようやくやって来たぼくの甥っ子。
よく来たね。ぼくはうれしいよ。
甥っ子は「翔」と名付けられた。「かける」じゃなくて「しょう」。ねえちゃんが考えた。二冊買った命名の本は、役に立ったのか立たなかったのか。
……安直な気がする。
「トップアイドルになるかもしれないし」
ねえちゃんが言う。
「メジャーリーガーになるかもしれないし」
それは翔平だな。うん、やっぱり安直だった。でもいい。なんか、大きな夢がありそうだ。飛び立ちそう。なによりかっこいい。少なくとも、ぼくら家族のアイドルではある。
元気に育て。そして大きくなれ。翔。クズヤローなんかになるんじゃないぞ。
そして翌年
今年も梅雨が明けた。明けたとたん、真夏の暑さが襲ってくる。
翔は十か月。この夏の暑さが落ち着くころには一才を迎える。ハイハイをはじめたと思ったら、もうソファにつかまって立っている。成長が著しい。
「んまー」とか「だあ」とか言うようになった。啓太と呼んでくれるのはまだまだ先のようだ。
赤ちゃんにはいろんなことが起きる。夜泣きはもちろん、急に熱を出したり、吐いたり。とつぜん、赤いプツプツができたり。そのたびに大騒ぎしていたねえちゃんも、いまではちょっとくらいのことじゃ動じない。
夜に突然熱を出しても、「熱さましを飲ませておけばだいじょうぶ」と言う。明日になっても下がらなかったら病院へ行く。だそうだ。
だいぶ母親も板についてきて、いっそふてぶてしいくらい。
ぼくもずいぶんと、お世話をしている。ふろ、ミルクに離乳食、おむつ替え。ウンチの始末だってちゃんとやる。将来結婚して子どもが産まれてもちゃんと面倒を見れるはず。奥さんより上手かもしれない。
おなかの大きいねえちゃんを白い目で見ていた向かいの老夫婦も、ベビーカーに乗った翔を見かけると目尻を下げる。おはようだの、今日もかわいいねだの。心の中じゃ、うるせぇと思う。
ねえちゃんはそう思いながらも、ちゃんと笑顔であいさつを返す。
ちゃらんぽらんなねえちゃんが、大人になった。
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