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   ねえちゃんも部屋からおりてきて、三人で晩ごはんを食べた。とくに話すこともなく黙々と食べ終え、ねえちゃんが後片づけを手伝った。その後に話を聞かせてくれるんだろう。  ソファにすわってぼんやりとバラエティ番組を見ていた僕の前に、ねえちゃんがぺらっとした紙を一枚差し出した。 「これ、赤ちゃん」  ぼくは目を瞠った。 「……人じゃん」  それはテレビとかで見たことがある、グレーのモヤモヤした写真だった。エコーとかいうやつ。そこに写っていたのはくるりと丸まった明らかな人間だった。 「男の子なんだって。ほら、これがチンチン」  指で指されれば、なるほどそんなものが見てとれる。 「マジか」  ねえちゃんの腹の中に、これがいるのか。思わずその腹を凝視してしまう。 「動くんだよ」  そう言って、Tシャツの上から腹を撫でた。  ちょうどそのとき、ねえちゃんの腹がぐねりとうねった。 「あっ、ほら!」  衝撃が走った。ねえちゃんの腹が生きている。生きて動いている。ぼくは息をのんだ。  マジか。理解の範疇を超えている。 「予定日は十月の半ばだって」  ママが言った。今、二十八週目、七か月。  あと三か月でぼくはおじさんになるらしい。 「元気でよかったわ、美結も赤ちゃんも」 「お医者さんに怒られちゃった」  ねえちゃんがぺろりと舌を出した。ここまで放置したら怒られるでしょうね。どちらも元気でよかったですよ、まったく。 「産んでからが問題なのよね」  ママが続ける。 「自分で育てるのか、養子に出すのか、里子に出すのか」  自分で育てるのはわかる。養子と里子ってなんだ。なにがちがうんだ。 「児童相談所が相談にのってくれるんだって」  え? それって虐待された子どもを助けるだけじゃないんだ。  待てよ。ねえちゃんも子どもだ。まだ未成年だし。高校生だし。産まれてくる赤ちゃんも子どもだ。  どっちも児童相談所案件なのか? 「ほんとは今日、区役所に行って母子手帳もらってくる予定だったけど、病院に時間かかっちゃってね。疲れたから明日にしたわ。明日母子手帳もらって相談してくる」  児童相談所に母子手帳。世の中ぼくの知らないことだらけだ。
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