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8
ねえちゃんも部屋からおりてきて、三人で晩ごはんを食べた。とくに話すこともなく黙々と食べ終え、ねえちゃんが後片づけを手伝った。その後に話を聞かせてくれるんだろう。
ソファにすわってぼんやりとバラエティ番組を見ていた僕の前に、ねえちゃんがぺらっとした紙を一枚差し出した。
「これ、赤ちゃん」
ぼくは目を瞠った。
「……人じゃん」
それはテレビとかで見たことがある、グレーのモヤモヤした写真だった。エコーとかいうやつ。そこに写っていたのはくるりと丸まった明らかな人間だった。
「男の子なんだって。ほら、これがチンチン」
指で指されれば、なるほどそんなものが見てとれる。
「マジか」
ねえちゃんの腹の中に、これがいるのか。思わずその腹を凝視してしまう。
「動くんだよ」
そう言って、Tシャツの上から腹を撫でた。
ちょうどそのとき、ねえちゃんの腹がぐねりとうねった。
「あっ、ほら!」
衝撃が走った。ねえちゃんの腹が生きている。生きて動いている。ぼくは息をのんだ。
マジか。理解の範疇を超えている。
「予定日は十月の半ばだって」
ママが言った。今、二十八週目、七か月。
あと三か月でぼくはおじさんになるらしい。
「元気でよかったわ、美結も赤ちゃんも」
「お医者さんに怒られちゃった」
ねえちゃんがぺろりと舌を出した。ここまで放置したら怒られるでしょうね。どちらも元気でよかったですよ、まったく。
「産んでからが問題なのよね」
ママが続ける。
「自分で育てるのか、養子に出すのか、里子に出すのか」
自分で育てるのはわかる。養子と里子ってなんだ。なにがちがうんだ。
「児童相談所が相談にのってくれるんだって」
え? それって虐待された子どもを助けるだけじゃないんだ。
待てよ。ねえちゃんも子どもだ。まだ未成年だし。高校生だし。産まれてくる赤ちゃんも子どもだ。
どっちも児童相談所案件なのか?
「ほんとは今日、区役所に行って母子手帳もらってくる予定だったけど、病院に時間かかっちゃってね。疲れたから明日にしたわ。明日母子手帳もらって相談してくる」
児童相談所に母子手帳。世の中ぼくの知らないことだらけだ。
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