覚悟する1

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覚悟する1

 夏休みまであと三日。和馬はねえちゃんを避けている。話がある、とねえちゃんが言ったらラインも無視。電話も出ない。学校でも顔を合わせないように避けまくる。なにか察したようだ。身に覚えがあるんだろうか。  でもそれでは済まされない。夏休みに入る前に話をつけておきたいのがこちらの意向である。  妊娠がわかってからめそめそしていたねえちゃんは、意を決した。いつもつるんでいるマイピーとサーちゃんに妊娠を伝えた。和馬と付き合っているのだから、とうぜん父親も和馬である。  二人はこの期に及んで逃げ腰の和馬に腹を立てた。和馬の友だちの、リョウタとタイガを引き連れて和馬を取り囲んだのだ。その剣幕に和馬はビビった。そうして和馬は、逃げないようにリョウタとタイガにがっちりと両脇をはさまれて捕まった犯人にようにうちに連行された。  そこでママに強制的に電話させられて、両家面談を決められたのだ。  面談は明日の夜八時。 「なんでうちが行かなくちゃいけないの? むこうが来て頭を下げるのが筋じゃない?」  ママが怒っている。話の流れでこっちが出向くことになったらしい。 「和馬もだけど、親も無責任よね。事の重大さをちゃんと認識してほしいわ」  怒りマックス。クソオヤジは仕事で行けないと、言ったらしい。こんな大事なことなのにママに丸投げ。ねえちゃんが心配じゃないんだろうか。 「ぼくも行こうか」  なんの助けにもならないが、数は多いほうがいいかもしれない。 「だいじょうぶよ。ありがとう」  そう笑うママがちょっと痛々しい。  ほんとうにぼくは無力だ。  翌日の晩。ねえちゃんは泣きながら帰って来た。  ああ、うまく折り合いがつかなかったんだな、と思った。けれど、話はそんな生易しいものじゃなかった。 「父親は俺じゃないって言ったのよ! あのクソヤローが!」  ママがキリキリと歯噛みしながら言った。ママの口から「クソヤロー」なんてことばが出るなんて。 「はあ?」  なんでいまさらそんなことを言うのだ? 「リョウタともタイガともつき合っていたんだろうって」 「はあ?」  寝耳に水だ。昨日の逆恨みか?  うえぇぇー。またねえちゃんが泣きだした。 「ひどいよー。そんなことしてないもーん」  たしかにねえちゃんはちゃらんぽらんだが、だらしないわけじゃない。  和馬がそんなふうにいうものだから、むこうの親もうちは責任が取れないって言ったそうだ。 「何股もするおたくの娘さんが悪いんでしょう、って言ったのよ。あの母親!」  ひどい。それはあまりにもひどい。責任逃れするにしても、そこまでねえちゃんを悪く言う筋合いはないだろう。和馬もクソだが、親もクソだな。クソ家族。オヤジといい和馬といい、なんでうちのまわりにはクソヤローばっかりなんだろう。  はっ!  ぼくも? ぼくもクソヤローだろうか。たいして長くもない今までの人生を振りかえってみる。  自分ではクソ事案は思い当たらないけれど、他人から見たらあるのかもしれない。急に不安になる。 「最初からあてにはしていなかったけれど、これはあんまりだわ」 「ごめんなさいー」  ねえちゃんが泣く。 「あんたがそんな子じゃないのはわかってるから」  うえぇぇー。 「だから、あんなヤツと金輪際かかわっちゃダメよ!」  うわーん。 「やだあー。もう、やだあー!」  ねえちゃんは子どもみたいに盛大に泣きはじめた。 「こんな子、産みたくない! もういやだ!」 「美結!」 「子どもなんかいらない!」 「美結!」
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