11.当然の結果

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11.当然の結果

 俺は室内に戻ると、試しに三段腹さんに質問してみた。 「あの、三段腹さんのファーストキスって、いつでしたっけ?」  すると彼女は、先程までの物腰の柔らかさが嘘のように、ものすごく怪訝な表情で答えた。 「……なんでそんなことを訊くんですか?」 「いや、さっき教えてくれたので」 「そうでしたっけ……まあ答えますけど、14歳ですね」  変わっている……!  それになんとなく彼女の風貌比で言えば、リアルな数字になっていると言えないだろうか。うん、さっきより自然だ。うっかつ突っ込んでしまうこともないような数字だ。俺は続けて質問する。 「ここって、最寄り駅から、何分くらいでしたっけ?」 「素晴らしい立地ですよ。徒歩5分で桜花町駅に出られます」 「人力車だと何分くらいですか?」 「え? 人力車での移動時間は、ちょっと分かりかねますが……」  うん、まともだ……!  めちゃくちゃ真っ当な受け答えが出来ている。これはパニックという呪縛から解き放たれたという、証拠なのではないだろうか。だとすれば、もうこの部屋にデメリットは一切ないと言っていい。 「あの、俺、ここに決めます、住みます!」 「本当ですか、ありがとうございます」 「いやあ、もう、この条件でこのお家賃なら、お買い得ですから!」  彼女は嬉しそうに口角を上げて、大きく頷いた。 「そうですよね! この環境、この階層でお家賃50万円は、私もとてもお買い得だと思います!」 「え? 待って、お家賃いくらって?」 「いや、だから50万円ですが?」 「そこも適正価格になるんかい!!!!!!」  俺はここで、今日一番のパニックに陥った。  当然そんな給料を凌駕した家賃など払えるはずもなく……。  パニックと付き合う覚悟で紙を剥ぎ取り『829号室』に戻すか、すっぱりこの部屋を諦めるかの二択を迫られてしまうのだった。  829号室の呪いは、解けたんだか、解けていないんだか……。 ■おわり■
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