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3.部屋の秘密
すると三段腹さんのスマートなお腹には、毒々しいサソリの絵が大きく刻まれていた。まるでヘソ突き刺しそうな勢いの、迫力のあるサソリだった。
「いや怖っ!」
「え、可愛くないですか? サソリの紋々」
「も、もんもん!? 若い女子がそんな呼び方する!?」
「タトゥーとかより可愛い呼び名だと思いますけど、紋々♡」
マジで……なんなのこの子。
いや確かにね。海外の歌手とかスポーツ選手を見てみれば、タトゥーというのは今や一般的なものだし、お洒落とも言えるのかも知れない。
けれども今、唐突に不動産屋の店員から見せられても。しかも可愛い子のお腹だし。サソリだし。流石に予想外過ぎて怖い。
……もう、さっさと部屋の情報だけ聞いて帰ろう。
なんだかここにいると疲れるような気がする。
俺が「はぁ」と一つため息を吐くと、彼女は服装を正しながら、呆れた様子で言う。
「うーん。赤澤さん、829号室はやめといた方がいいかもですよ?」
829号室……って、そうか。
例の格安部屋が確かそんな部屋番号だったな。
……あ? 今なんて?
俺は彼女のどこか品定めしているような、上から目線にムッとして反論する。
「何でやめた方がいいんです? まだ話も聞いてないのに」
「だって赤澤さん、『パニック耐性』なさそうですもん。ここに来てからも相当パニクってますよね?」
「いやいや! それはキミが奇天烈なことするから……!」
「そういう部屋なんです」
「え?」
「関わるとパニックに見舞われる部屋、それが『PANIーHILLS 829号室』なんですよ」
俺が意味不明とばかりに首をかしげても、彼女の表情は変わらない。どうやら至って真剣なようだ。
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