別れんな

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「どうして結婚してないんだ?」  俺たちの年代ならもう結婚して子供がいるのが普通くらいになっている。それなのに楽しい人生だった彼女は、今聞いたのだが独身らしい。そこにはどんな理由があるのだろう。 「なんとなく、そんな相手に巡り合わなかったから。そういう事を言うならそっちはどうなの?」  ぷくっと頬を膨らませているのは悪魔な彼女なのかもしれない。  だけど俺は呆れてため息をはくと「俺は、仕事でそんな暇なんてなかったんだよ」なんてさっきの話を聞いていれば解ると言えることを語る。  その時に「そっか!」とやっと思いついみたいに彼女は笑顔になるのだが、こんな時にそんなに嬉しそうな顔になっても俺は彼女の仲間じゃない。理由があって独身なので昔で言うところの負け犬じゃないんだ。 「なら、付き合ってみちゃう? 昔は半分恋人みたいになってたんだから」  衝撃と一緒に痛いことを言われてしまう。それは昔のことだ。同じ部活で三年間、そして趣味だったからとても親しく一番の友人として過ごしていたら、学校では付き合っているといわれ、俺たちはお互いに否定もしていなかった。  もちろん、そんな想いがなかった訳じゃないのが俺としての理由。彼女みたいに楽しくて、趣味も合い、素敵な人が恋人だったら嬉しい。だけどそれを改めて話し合うと彼女に「恋人だなんて考えられない」と言われたら怖かったので、今になってもまだそんな話を一度も語ったことは無かった。  それがこの調子で、彼女のことだから本当に「付き合う」なんて考えて話しているのかもわからない。だけど、俺は死にそうな人生から生き延びるために戻ったんだからもう迷わない。 「君は素敵な人だ。俺で良かったら、これから先の人生ずっと付き合いたい」  この言葉にあはははっと彼女はうるさいくらいに笑った。やはり騙されたのかと大きなため息をはいて俺は座り込んだ。この懐かしい恋は破れてしまったんだ。  本当に楽しいみたいで彼女はそれからも笑って飛び跳ね、俺の肩を叩いたりしている。そんなに人を騙すのはたのしいのだろうか。でも、そんな人でないのも知っていたからちょっと不思議。  笑いはやがてフェードアウトするみたいに消えて、彼女は僕の肩に手を置いて顔を挙げる。その時の顔はもう忘れないだろう。とっても真剣な瞳だったから。
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