別れんな

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「嬉しいよ。私は嬉しいんだ。こんな嬉しいこと、笑わないと損だよ」  話している言葉とは違って、彼女は反対を向くとズビッと鼻を啜っている。時々頬を拭っているので泣いているんだろう。やはり昔の彼女と違わなくて騙された訳じゃなかった。  十五年越の恋が叶ってしまった。お互い改めて話したら昔から両想いで、考えていたことも一緒だったらしい。そしていつかはまた再会できる運命を努々描いていた。  交際は順調そのもの。元々無邪気な時代を知っていて、それが落ち着いて世の中もわかっている年代だからむやみなケンカやわだかまりを生まないように良く話して、そして笑っていた。俺の人生は明るく道がどこまでも延びている。  もう若くもなくて恋人付き合いも半年が過ぎたころになると「結婚かなー?」と彼女には言わないけど俺はそう考えていて、多分彼女もそんなに違わない想いは持っているだろうと予想していた。  だけど、その寒い冬の日の低い空から悪魔が舞い降りた。
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