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誰もが寝静まった夜中に、男の声が響いた。
「おい、俺が気付かないとでも思っているのか」
言われた女は、男の方を見ないで答える。
「何のこと?」
「とぼけるな。お前、俺から離れているだろう。少しずつ少しずつ、離れる距離を伸ばしやがって」
「は?」
「始めはもっと俺の近くにいた。確実に毎年離れているよな」
女は笑う。
「馬鹿ね。私があなたから、離れられるわけないでしょ」
「誤魔化すな!!」
男の大声に、少し離れた場所で心配そうに様子を窺っている木星がいた。
男──地球と、女──月の言い争いに木星は気が気でなかった。月が毎年3.8㎝ぐらいずつ地球から離れているからだ。わずかだが地球が言うように、月は地球から離れる距離を伸ばしている。が、
「心配することないわよ」
火星が木星の心配に鼻白んだ。
「離れるったって、宇宙の広さで考えたら微々たるものよ」
言い切る火星に、一瞬言葉を無くす木星。
「けど!」そんなことで、納得できない。だって、「どんなに僅かでも離れていけば、塵積じゃん。距離は確実に伸びる。地球が怒るのは無理もない、と思うけど」
「まあね。でも、金星を見てよ。彼も二人の喧嘩を止めてないでしょ?」
木星たちより地球の近くにいる金星は、地球たちの喧嘩に素知らぬふりだ。火星は説明を続ける。
「だってね。月が地球から離れていっていても、地球の海は相変わらず月の影響を受けて潮の満ち引きを繰り返しているし。月だって、その満ち引きの力は地球からエネルギーをもらっているのよ。あの二人はね、喧嘩したって大丈夫。喧嘩を止めようなんてしたら、こっちが馬鹿をみるのを金星は知っているのよ」
そう、地球と月の喧嘩は犬も食わないものなのだ。
地球と月の言い争いはまだ続いている。火星の説明を聞くとじゃれ合っているように見え、木星は啞然とするのだった。
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