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お忍びデート
「ダイアナ! あなたとグレンは、コミュニケーションが圧倒的に足りないわ!」
ダイアナの部屋に入るなり突然こんなことを言い出したのは、姉のイヴリンである。
気が強くて自由気ままなイヴリンは、対人関係に積極的だ。そんな彼女は、もうすっかりグレンとも打ち解け合っていた。
ダイアナにとっては少々騒がしい姉だが、一歩外に出れば完璧な淑女になる。容姿も所作も美しく、見る者を惹きつけてやまない。そんな彼女は、あと半年もすれば大国の王太子の元に嫁ぐことになっていた。
「そうかしら?」
「そうよ! グレンをここへ連れてきたあなたが一番よそよそしいってどういうこと? お兄様やお義姉様の方が仲良しに見えるわよ」
お兄様というのは王太子ジーンであり、お義姉様というのは、王太子妃エレインのことである。
幼い弟妹が一番懐いているが、ダイアナより上の面々もグレンと仲がいい。
ジーンやエレインは、豊富な知識を持っているグレンの話が興味深いらしく、執務中にもちょくちょく呼び出しているようだ。
「お二人とも、グレン様の話はいろいろと参考になるとおっしゃっていましたから」
「それはそうなんだけど! ……そういう意味では、ハリーもグレンに懐いているわね」
「ハリーは勉強が大好きですもの」
学業優秀な第二王子のハリーは、他の皆より目立ちはしないが、さりげなくグレンにくっついている。
「皆に比べて、あなたは彼と過ごす時間が少ない。これは由々しきことよ」
「どうしてですか?」
何か不都合があるだろうか。
グレンがティアルで心安らかに過ごすこと、ダイアナが願うのはこの一点のみだ。それが叶っているなら、何も言うことはない。
イヴリンはやれやれというように溜息をつき、次の瞬間、ビシッとダイアナを指差した。
「お姉様、人を指差すなど……」
「そんなことは百も承知! ダイアナ! これからグレンと一緒に王都に行きなさい!」
「えぇっ!?」
イヴリンがそう言った瞬間、控えていたエリンがすぐさま出かける準備を始め、イヴリンの侍女は部屋を出て行った。
グレンに話をしに行くのだろう。命じられる前に動く、できた侍女たちである。
「ちょっと待ってください! いきなりそんなことを言われても……。それに、グレン様もお困りになるわ」
「そんなことないわ。グレンは喜んで行ってくれるわよ!」
何故か自信満々でそう答えるイヴリンに、ダイアナは小さく吐息する。
グレンの立場からすると、そうせざるを得ないのだ。
おそらく、マネルーシでもそんな風にアレクサンドラに振り回されていたと思われる。だから、ティアルでは自由に過ごしてもらいたいのだが……。
そんな風に思いを馳せている間にも、エリンはダイアナを着替えさせ、髪を結い、化粧を施す。
「あぁ! 町娘を目指しても、ダイアナ様の溢れ出る高貴さ、美しさは隠しようがありませんわ!」
「あら、可愛らしい」
エリン曰く「町娘」なダイアナを眺め、イヴリンが満足げに頷いた。
王都で流行っている可愛らしいワンピースに、髪はちょうど耳のあたりでお団子にされ、オリーブグリーンのリボンが結ばれている。頬にかかる後れ毛には緩くウェーブがかかっていた。
町娘というよりは、裕福な商家の令嬢といった雰囲気だ。
「デートにぴったりな装いね。さすがエリンだわ」
「恐れ入ります」
「デッ、デート!?」
ダイアナは、そのまま固まってしまった。
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