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「ダイアナ様、こちらの髪飾りなんてどうですか?」
「まぁ、とても綺麗!」
グレンが手にしていたのは、アクアマリンが埋め込まれた髪飾り。花の意匠が施されており、美しくも可愛らしいものだ。
今日はお団子に結っているのでつけられないが、普段なら大活躍すること間違いなしである。
デートと言われ、最初はガチガチになっていたダイアナだが、グレンの穏やかな笑みを見ているうちに緊張も解れ、いまやすっかり楽しんでいる。
ダイアナは心配したが、イヴリンの言うとおり、グレンは即座に二つ返事で付き合ってくれた。
王女と侯爵令息という顔は一旦置いておき、裕福な平民として王都の町を散策する二人。少し離れたところから、護衛のジョナスと侍女のエリンが二人を見守っていた。
「なんだかんだと、ダイアナ様も楽しんでいらっしゃいますね。よかった……」
「あのような笑顔を見るのは久しぶりのような気がする。グレン様は、人心掌握の達人だな」
互いに笑顔で楽しそうに歩く姿は、意図せずとも仲の良いカップルに見える。周りの人間も、羨ましげな視線を向けている。
アクセサリーショップで髪飾りを買ってもらったダイアナは、丁寧に包装された小箱を胸に、グレンを見上げた。
「ありがとうございます、グレン様」
「それほど喜んでいただけるとは嬉しい限りです。他にも、もっとプレゼントしたくなってしまいますね」
「そんな……! えっと、わ、私もグレン様に何か贈り物をしたい……です」
柔らかな笑顔で顔を近づけられる度、ダイアナの心臓は大きく跳ねる。頬が熱くなり、グレンから目を逸らしたくなる。それでも、見つめずにはいられない。
こんな気持ちは初めてだった。
こんな風に殿方と一緒に町を歩くなんてなかったから……。それに、一緒に選んだアクセサリーをプレゼントしてもらうなんてことも初めてだし。だから、舞い上がっているだけ。それだけよ。
そう言い聞かせながらも、彼から視線を逸らせない。ずっと見ていたいなどと思ってしまう。
心の一番柔い部分がほんのりと温かい。そのくせ、心臓はバクバクとうるさいほど高鳴っている。
「ダイアナ様、疲れていませんか? 一度あの店で休憩しましょう」
グレンが指差した店は、王都で大人気のカフェである。
流行に敏感なイヴリンなどは、オープンしてすぐに足を運んだというが、ダイアナはまだ行ったことがなかった。
「はい! 私、お姉様から話を聞いて、一度行ってみたかったのです!」
思わず瞳をキラキラさせるダイアナに、グレンはゆっくりと頷き、手を取った。
「それはよかった。では、参りましょう」
「でも、入れるかしら? とても人気で、行列ができると聞いているわ」
心配するダイアナに、グレンは珍しくニッと口角を上げ、軽くウインクしてみせる。
ドキリ。
悪戯を仕掛けた子どものようなその笑みに、ダイアナの心臓が大きな音を立てる。
そ、そんな顔もできるのね……っ。
いつもの穏やかで大人な雰囲気とは違い、そんな笑顔もダイアナの目には魅力的に映る。
「実は、予約をしているのです。だから、すぐに入れますよ」
ダイアナの耳元で、グレンが囁いた。
きゃあああああっ!
心の中で悲鳴をあげる。
表情はかろうじて冷静さをキープできているようだが、頬はますます熱くなっていく。
私、絶対に真っ赤だわ! ど、ど、ど、どうしたらっ!?
冷静でいたいのに、無理! 無理無理無理! こんなの絶対無理よ!
……グレン様、ずるいわ!
そんなダイアナの心の声は、当然グレンには届かない。
「楽しみですね」
「え、えぇ! 本当にっ」
みっともなく声がうわずる。
グレンは、声までも魅力的なのだ。
これまで、男性とあまり関わってこなかったこの身を呪いたくなる。免疫がなさすぎる己に呆れつつ、それでも彼を見つめてしまう。
どうしましょう、本気で困ったわ。
どんどんグレンに惹かれていく。
ダイアナは、どうしようもなく途方に暮れてしまった。
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