いざ、マネルーシ王国へ

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いざ、マネルーシ王国へ

 王命により、グレンはマネルーシ王国に戻ってきた。  しかし、一人ではない。ダイアナと、今回はジーンも一緒である。王太子妃エレインの出産も無事終えたこともあり、彼も行くことを決めた。ジーンは、ティアル国王の名代としての訪問になる。  来国することはすでに伝えており、マネルーシ王国もそれを拒否することはできなかった。なにより、オーウェル侯爵家が強く希望したのだ。  王太子であるジーンが来るということで、マネルーシ王家は歓迎の夜会を開くことにした。  急遽開催ということで、普段の規模よりは小さいが、王家に近しい高位貴族が多数参加しており、華やかである。そんな中、ダイアナたちは乗り込んでいくことになる。  全員が入場した後、マネルーシ王の宣言で開会する。楽団が演奏を始め、夜会がスタートした。  とりあえず、最初は挨拶代わりのダンスを披露し、王族や他の貴族たちと他愛ない会話を交わしていく。ダイアナとジーンは如才なく立ち回り、彼らに上手く対応していた。  彼らは獣人を見下していながらも、さすがに王太子と王女に対しては平身低頭である。それに、ダイアナもだが、ジーンはとても容姿に優れていることもあり、獣人にもかかわらず、高位貴族の夫人たちを赤面させていた。ちなみに、アレクサンドラ王女も頬を染めていたほどだ。  グレンはというと、家族との再会を果たしていた。ダイアナたちとは時折目配せする他は、距離を取っている。  ダイアナとジーンは、最初の方にオーウェル侯爵夫妻に簡単に挨拶をした程度。しかし、この夜会の間でゆっくりと話す機会があるはずである。 「動くぞ」  その時、王家の動きをそれとなく監視していたジーンがダイアナに囁いた。ダイアナは小さく頷き、グレンを見る。グレンも気付いたようで、こちらに向かって来た。 「グレン!」  グレンがダイアナたちの元へ到着するのと、アレクサンドラがグレンに声をかけるのとほぼ同時、いや、ほんの少しだけグレンの到着の方が早かったか。  ダイアナとジーン、グレンの三人は、一斉にアレクサンドラを見た。  彼女は従者のみを連れ、ホレスを伴っていない。彼と婚約すると言っていたのに、どういうことだろうか。 「お久しぶりでございます、アレクサンドラ王女殿下。この度はお気遣いいただき、ありがとうございました」  改めてグレンがそう挨拶すると、アレクサンドラは高飛車な笑みを湛える。 「グレン、家族ともっとゆっくりお話したいのではなくて? 専用の控室を用意しているからいらっしゃい。私も、あなたといろいろ話をしたいわ」  オーウェル侯爵家の中に、彼女も混ざろうというのか。それで、何を話すというのか。  想像はできる。できるが、本当に自分のことしか考えていないのだな、と呆れてしまう。  ダイアナとジーンはそんな気持ちをおくびにも出さず、にこやかな表情を保ち続ける。 「それなら、ジーン殿下とダイアナ殿下もお連れしてよろしいでしょうか?」  グレンの問いに、アレクサンドラは眉を顰めた。が、すぐさま我に返る。 「あら、お二人とお話したい貴族は大勢いるわ。邪魔しては気の毒よ。それに、あなたの家族とお話するのに、どうしてお二人までお連れするのかしら?」 「オーウェル侯爵とは手紙でやり取りしていましてね。ぜひお会いしたいと言っていたのですよ」  ジーンが口を挟み、アレクサンドラが引く。  他の者なら、会話を遮るなと彼女は癇癪を起しただろう。だが、そうはならなかった。  人の目があるからではない。単に、ジーンの迫力に気圧されたのだ。 「そ、そうだったのですね。ですが、せっかくの家族水入らずですので……」 「では、王女殿下もご遠慮されると?」 「……っ」  遠慮するつもりなどなかったアレクサンドラが言葉に詰まる。 「ジーン殿下とダイアナ殿下もお連れしたいと存じます。……よろしいですね?」  すかさずグレンがそう言って、アレクサンドラの了承を取った。  彼女は悔しそうな顔を扇で隠しつつ、控室に向かう。扇が僅かに震える様に、彼女のイライラさ加減が垣間見えた。  三人は密かに視線を合わせ、口角を上げる。  前の方に、オーウェル侯爵夫妻の姿が見えた。彼らも他の従者に控室に案内されているようだ。  舞台は整った。  ──さぁ、これからアレクサンドラにひと泡ふかせてやるのだ。
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