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「了承いたしかねます、王女殿下。私は、あなた様とグレンの再婚約を認めることはできません。グレンも同じ気持ちでしょう」
「私に歯向かうと言うの? 私に逆らうことは王家に逆らうこと。オーウェル侯爵家は、王家に叛意ありとみなすわよ!?」
目をつり上げてそう叫んだ後、アレクサンドラはグレンの両腕を掴み、縋るように見上げる。
「グレン、グレンは違うわよね? 私とまた婚約するわよね?」
グレンは彼女の手を振り払い、首を横に振った。
「私も同じ気持ちです。あなたとの縁はすでに切れている」
その言葉に、アレクサンドラは愕然としよろめく。とても立っていることができず、ソファに倒れ込んだ。
「なんと、なんということ……」
だが、すぐに持ち直し、立ち上がってグレンに駆け寄る。
「そうだわ! あなた、脅迫されているのではなくて? そこにいる獣人国の王女に、何か弱みでも握られているのでしょう? ちょっと、あなた!」
アレクサンドラはダイアナをギラリと睨みつけ、こちらに向かってくる。
その獰猛な視線に一瞬怯むが、ダイアナは負けまいときつく睨み返す。
「さすが野蛮な国の王女、恐ろしい目をしているわ。あなた、グレンの弱みを握っているのね。でも無駄よ。グレンは私が守るわ。汚らしいあなたなんかに……」
掴みかかってこようとするアレクサンドラを避けようとした時、叩くような大きな音がした。
「痛いっ! 何をするの!?」
「そちらが先に攻撃しようとしたので、それを防いだまで。可愛い妹に傷をつけるわけにはいきませんので」
ダイアナの目の前に立ち、アレクサンドラの腕を叩き落したのはジーンだった。そしてダイアナはというと、グレンに抱えられている。
いったいいつの間にここまで移動したのか。手を出される、と思った瞬間には、グレンの腕の中にいたのだ。
「グレン! どうしてそんな女をっ……!」
「やれやれ、マネルーシの王女はきちんとした教育をされていないと見える。仮にも友好国の王女に向かって「そんな女」などと。あぁ、先ほどは我が国を「野蛮な国」ともおっしゃっていましたね」
「あ……そ、それは……」
ジーンに痛いところを突かれ、アレクサンドラが慌てふためく。助けを呼ぼうにも人払いをしており、彼女の味方はいない。
「このことは、マネルーシ国王に正式に抗議させていただきます」
「そんなっ……! も、申し訳ございませんっ。腹が立って、つい心にもないことを言ってしまっただけですわ! だって、愛する婚約者が他の女性を腕に抱くなどっ……」
「そもそも、その考えがおかしいのです」
ダイアナを抱いたまま、グレンが言った。
グレンはダイアナの額にそっと口づけ、甘く微笑む。その次の瞬間には、アレクサンドラに冷ややかな視線を向けていた。
「私がダイアナを守るのは当然のことです。妻を守るのは、夫の役目ですから」
「つ……ま……?」
アレクサンドラが呆然とする。
そして、驚きすぎたせいか、気が抜けてしまったのか、彼女はそのまま床に座り込んでしまった。
「そんな馬鹿な……。ありえないわ。妻? グレンがその女と? 一体誰が婚姻の許可などっ……」
ブツブツと呟いているアレクサンドラに、オーウェル侯爵が淡々と告げる。
「私と妻が許可いたしました」
「ありえないわ! オーウェル家が許可したって、お父様が許可するはずないもの!」
「あぁ。だから、私が許可した」
控室の続きの部屋から声がした。そして、その主を見て、アレクサンドラが小さく悲鳴をあげる。
「お兄様……っ」
この場に現れたのは、アレクサンドラの兄であるマネルーシ王国の王太子だった。
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