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交流夜会
事のはじまり──それは、美しい月夜だった。
豪華なシャンデリアが煌めき、一流の演奏家たちが奏でる音楽が流れている。
ここは、マネルーシ王国の王城。今宵は夜会が開かれている。それは、マネルーシ王国が隣国のティアル王国との交流を目的として開催されたものだった。
広々としたホールでは皆がダンスを楽しみ、その傍らでは社交が行われている。ひしめく人の間を縫うように、給仕をする者が足早に、且つ、優雅に行き交っていた。
「ふぅ……」
「王女殿下、お疲れでしたら控室にお連れします」
「いえ、そうじゃなくて。……でもそうね、少し疲れたかも。外の空気を吸いたいわ」
「でしたら、バルコニーに」
「そうね……」
「殿下?」
思案していても、その瞳は宝石のような輝きを放ち、姿勢のよい立ち姿には高貴さが漂っている。身に着けているものといえば、もちろん一流の品ばかり。
そんな彼女は、側に控える護衛に向かって不満を漏らした。
「ジョナス、「王女殿下」なんて呼ばれるとむず痒いわ。いつもどおりでいいから」
「しかし……」
「私が王女といっても、この国の貴族たちは敬ったりしないわ。表ではそう振る舞っていても、裏では私たちを見下しているのだから」
「……」
「だから、いつもどおりでいいのよ。私がそう望んでいるの」
ジョナスと呼ばれた護衛は、口を真一文字にして俯き加減になる。そして、その拳は強く握られていた。頭の上にある丸い耳が、若干萎れている。尻尾もしょんぼりと下がっていた。
しかしすぐに顔を上げると、しっかりした声で応える。
「承知いたしました、ダイアナ様」
「それでいいわ」
ダイアナが満足そうに微笑む。その微笑みは、天使のように神々しい。
その笑顔に周りは魅了されるが、それも一瞬のこと。すぐに平常を取り戻す。だが、ダイアナの一挙手一投足に皆が注目しているのは、一目瞭然だった。
ダイアナの護衛、ジョナスは熊の獣人である。そして、ダイアナは猫の獣人。
ティアル王国は、獣人の国なのである。ダイアナは、ティアル王国の第二王女だ。
今日の交流会には、王太子である第一王子が参加する予定だった。しかし、妃が身重であり、もうすぐ出産ということもあって、参加を見合わせることにした。
ならば、姉である第一王女が出席すべきなのだが、彼女は自由奔放な性格で、出席を拒否した。
『マネルーシは、弱っちいくせにうちを見下して偉そうだから嫌いよ。私は行きたくないわ!』
とのことである。
いくら説き伏せても無駄だ。彼女はこうと決めたら梃子でも動かない。
我儘で気ままな彼女だが、家族には優しい。ダイアナも常々可愛がってもらっている。ここは引くしかなかった。
ダイアナは上から三番目であり、上の二人が参加しないとなると、もう彼女しかいない。下の弟妹たちは、他国に単独で来られる年齢ではなかった。
というわけで、ダイアナは専属侍女のエリンと護衛のジョナスを連れて、ここへやって来たのである。もちろん他にも護衛や従者はいるが、彼らは皆、宿屋で待機させていた。
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