交流夜会

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   まがりなりにもダイアナたちは賓客なのだが、王城での宿泊を辞退した。王城で形だけの接待を受けても、気苦労が絶えないからだ。それならまだ王都に構える高級宿の方が気楽である。  防犯という観点では、もちろん王城の方が安全。しかし、獣人にとってはさほど問題ではない。  例えば、騎士団の全員で攻め入られでもしたら、さすがにダイアナたちでも全滅してしまうだろう。統制された集団に、少人数ではとても太刀打ちできない。  だが、そこらの盗賊や強盗なら、こちらが圧倒的に強い。束になって来られてもだ。  だから、居心地の悪い王城よりも宿を選んだ。  姉王女の言うように、マネルーシ王国はティアル王国を見下している。  一応友好国なのでそれなりの体裁は保っているが、マネルーシ王国は人間至上主義であり、異種族差別が激しい。故に、獣人のことも差別していた。  先々代のマネルーシ王はそんな二国の関係を憂い、お互いが分かり合えるようにと、こういった交流会を催すようになった。しかし、その成果は未だ出ていない。  人間と獣人の違いは、一番は見た目である。  獣人には属する動物の耳と尻尾がついている。猫獣人のダイアナにも、尖った耳と長くしなやかな尻尾がある。  ただ、女性の場合は尻尾はドレスで隠れる。問題は耳だが、これも髪の結い方や飾りで誤魔化すことが可能だ。しかし、男性はそうはいかない。  熊獣人のジョナスは、耳も尻尾も隠れない。熊なのでそれほど大きくはないが、それがない人間と並ぶとどうしたって目立つ。  王女であるダイアナにはそれなりに敬意を払っても、ジョナスには冷ややかな視線を向ける者も多かった。  そういうこともあり、少しの間だけでもこの場を離れたいと思ったのだ。 「そうだ。ここの庭園は綺麗な花々が咲き乱れて、それは美しいそうよ。月明かりに照らされた花も、さぞ美しいことでしょう。ジョナス、庭園に行くわよ」 「ダイアナ様、庭園は広うございます。月で明るいとはいえ、暗闇は危険です」 「暗闇が危険? 私は猫の獣人よ。夜目がきくわ」  獣人は、属する動物の特徴を引き継いでいる。故に、ダイアナは人間よりも夜目がきくし、運動能力も高い。おまけに聴覚や気配にも鋭い。大抵の危険は回避できる自信がある。 「ダイアナ様……」 「お願い。気分を変えたいの」  そう言って上目遣いでうるうるすると、見た目にそぐわず心優しいこの護衛が折れることを、ダイアナはよく知っていた。  案の定、ジョナスは渋々ながらもダイアナの希望を受け入れる。 「少しだけですよ」 「えぇ、わかっているわ。少しだけ」  二人はさりげなく場所を移動し、目立たないようにこの場を後にした。
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