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大喧嘩、そして帰国
「今、何とおっしゃいましたか?」
気付いた時には、アレクサンドラと対峙していた。
突然登場したダイアナたちに彼らは一瞬絶句したが、すぐに気を取り直し、アレクサンドラは激昂する。
「なんて非常識なのでしょう! 獣人国の王女殿下は、礼儀をご存じないのかしら?」
「こんな場所で、婚約破棄だのなんだの騒いでいる方に言われたくありませんわ」
「なんですって!?」
そこからは、売り言葉に買い言葉、ダイアナとアレクサンドラは激しく言い争った。
ダイアナは、基本的に穏やかな性格なのだが、理不尽なことが許せないタイプだ。そして、自国を愛している。獣人国を、獣人を侮辱することは、絶対に許せない。
そして、言うまでもなくアレクサンドラは苛烈であり、とんでもなく我儘である。
この二人が言い争いをしているのだから、誰も止めることができない。
「やはり、獣人は野蛮ですのね! それにはしたないこと! 呼ばれてもいないのにしゃしゃり出て、引っ掻き回す。いったいどういうおつもりなのかしら? 出しゃばりで野蛮で礼儀知らずだなんて、とんでもないわね。あなたが王女だなんて、とても信じられませんわ。あなたみたいな方を王女と敬っているなんて、獣人もたかが知れますわね!」
とんでもない。その言葉をそのまま返したい。
おとなしく脇に控えているジョナスも、身体がわなわなと震え、今にも剣を抜きそうな勢いだ。ダイアナも、我慢の限界だった。
その上、アレクサンドラは婚約者にも酷い言葉を投げつける。
「ちょっと見た目がいいからって、調子に乗っているのではなくて? あなた程度の美男子なんてそこら中にいるし、私がわざわざ選ぶほどでもなかったわね。最初からホレスを選んでいればよかった。本当に期待外れだったわ!」
ブチッ、ブチブチブチッ。
何様だ、お前は。いくら王族だからと言って、言っていいことと悪いことがある。誰が高貴で美しい? 笑わせる!
それほどまでに婚約者を貶めるのなら。それほどまで厭うのなら──
「それほどまで言うなら、私がいただきましょう!」
後先考えず、こう叫んでしまったのだった。
*
「ダイアナ様、まだ落ち込んでいらっしゃるんですか?」
冷めてしまった紅茶を淹れ直しながら、鷹獣人である侍女のエリンが声をかける。
ダイアナは彼女を見上げ、小さくコクリと頷いた。
「だって、私の不用意な発言で婚約破棄させてしまったのよ? それに、国外追放まで……」
「国外追放だなんて大袈裟な。ティアルに来ると決めたのはグレン様のご意思ですし、一応「留学」という形でいらっしゃっているのですから」
あれからすぐに、父である国王に一報を入れた。
国王は対応を兄である王太子に任せ、王太子は迅速に動いて、諸々体裁を整えてくれた。
そのことにはとても感謝しているが、聞くところによると、話を聞いた途端家族全員で大爆笑したらしい。
「普段穏やかな者を怒らせると、とんでもなく面白いことをしてくれるな!」「あのいけすかないマネルーシの王女の婚約者を横取りするなんて、ダイアナもやるわね!」など、ダイアナがいないことをいいことに、皆が好き放題言っていたというのだから酷い話だ。
だから、帰国直後に両親や兄姉に頭を下げた後、ダイアナは彼らに散々文句を言ったのだった。
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