ティアル王家

2/2

229人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「アイリス」 「それより! グレン、僕と剣の稽古をしようよ! 今日こそは一本取ってやるっ」 「リオン!」  グレンの人気は凄まじい。  初日こそ客人扱いであったグレンも、一週間も経つと家族のように馴染んでしまった。というのも、彼は王城に住まいを与えられたからだ。  それに驚いたのはグレンだけでなく、ダイアナもだった。ダイアナとしては、王都の一等地にある別邸に住んでもらうつもりだったのである。  しかし、ダイアナの一報を受けた両親は、盛大な勘違いをしたのだ。 『なに!? ダイアナが婚約者を連れて戻ってくる? すぐに王城内に部屋を用意しろ!』 『まぁ! どんな殿方にも靡かなかったあの子が、ようやく……!』  これまでダイアナは、自分の意思を尊重してもらえるのをいいことに、あらゆる令息との婚約を断り続けていた。どんな男性にも首を縦に振らなかったことから、両親はダイアナの将来を案じていたのだ。  そこへ、侯爵令息を連れ帰るという一報。二人は喜び勇んで、王城に部屋を用意したのだった。 「ダイアナ様、フローラをお預けしてよろしいでしょうか?」 「あ、はい! 申し訳ございません、グレン様」  ダイアナは、グレンから眠っているフローラを受け取る。その後、グレンはアイリスを抱き上げ、リオンに向かってにっこり笑った。 「リオン、相手になりますよ」 「やったぁ!」 「きゃあ! 私、グレンを応援しますわ!」 「ありがとうございます、アイリス」  グレンはダイアナに一礼し、アイリスを抱っこしたまま、リオンとともに部屋を出て行った。 「グレン様は大人気ですね」  彼らを見送りながら、エリンが微笑む。 「本当に。あの子たちもすっかり懐いてしまったわね」 「ダイアナ様」 「何かしら、エリン」  エリンは、少々圧をかけるように言った。 「ダイアナ様がグレン様に対し、一番他人行儀ですわ」  ダイアナは、ぐっと言葉に詰まる。 「それはっ……仕方のないことじゃない?」  やむを得ず連れ帰ってはきたが、グレンはダイアナの婚約者ではない。元々、何の関係もなかった。友人でもない。  だから、ダイアナはグレンを「グレン様」と呼ぶ。最初は「オーウェル侯爵令息」と呼んでいた。しかし、ここにきてさすがにそれでは他人行儀すぎると、グレンの方から名前で呼んでほしいと言われた。それで、ようやく互いを名前で呼ぶようになったのだ。  ちなみに、ダイアナ以外の面々は、すでに「グレン」と親しげに呼んでいる。 「……どう接していいのかわからないのよ」  困り果てるダイアナに、エリンは肩を竦め、苦笑した。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

229人が本棚に入れています
本棚に追加