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「アイリス」
「それより! グレン、僕と剣の稽古をしようよ! 今日こそは一本取ってやるっ」
「リオン!」
グレンの人気は凄まじい。
初日こそ客人扱いであったグレンも、一週間も経つと家族のように馴染んでしまった。というのも、彼は王城に住まいを与えられたからだ。
それに驚いたのはグレンだけでなく、ダイアナもだった。ダイアナとしては、王都の一等地にある別邸に住んでもらうつもりだったのである。
しかし、ダイアナの一報を受けた両親は、盛大な勘違いをしたのだ。
『なに!? ダイアナが婚約者を連れて戻ってくる? すぐに王城内に部屋を用意しろ!』
『まぁ! どんな殿方にも靡かなかったあの子が、ようやく……!』
これまでダイアナは、自分の意思を尊重してもらえるのをいいことに、あらゆる令息との婚約を断り続けていた。どんな男性にも首を縦に振らなかったことから、両親はダイアナの将来を案じていたのだ。
そこへ、侯爵令息を連れ帰るという一報。二人は喜び勇んで、王城に部屋を用意したのだった。
「ダイアナ様、フローラをお預けしてよろしいでしょうか?」
「あ、はい! 申し訳ございません、グレン様」
ダイアナは、グレンから眠っているフローラを受け取る。その後、グレンはアイリスを抱き上げ、リオンに向かってにっこり笑った。
「リオン、相手になりますよ」
「やったぁ!」
「きゃあ! 私、グレンを応援しますわ!」
「ありがとうございます、アイリス」
グレンはダイアナに一礼し、アイリスを抱っこしたまま、リオンとともに部屋を出て行った。
「グレン様は大人気ですね」
彼らを見送りながら、エリンが微笑む。
「本当に。あの子たちもすっかり懐いてしまったわね」
「ダイアナ様」
「何かしら、エリン」
エリンは、少々圧をかけるように言った。
「ダイアナ様がグレン様に対し、一番他人行儀ですわ」
ダイアナは、ぐっと言葉に詰まる。
「それはっ……仕方のないことじゃない?」
やむを得ず連れ帰ってはきたが、グレンはダイアナの婚約者ではない。元々、何の関係もなかった。友人でもない。
だから、ダイアナはグレンを「グレン様」と呼ぶ。最初は「オーウェル侯爵令息」と呼んでいた。しかし、ここにきてさすがにそれでは他人行儀すぎると、グレンの方から名前で呼んでほしいと言われた。それで、ようやく互いを名前で呼ぶようになったのだ。
ちなみに、ダイアナ以外の面々は、すでに「グレン」と親しげに呼んでいる。
「……どう接していいのかわからないのよ」
困り果てるダイアナに、エリンは肩を竦め、苦笑した。
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