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ダイアナとグレン
ティアル王国は、今日もいい天気だ。爽やかな風も吹いており、気持ちがいい。
こんな日のティータイムは、庭園のガゼボで楽しむことが多い。
「今日のお茶も、とても美味しいですね」
「本当に? それはよかったですわ。このお茶はティアルの名産で、マネルーシでは流通していないでしょうし、お口に合うか不安でしたの」
「そうだったのですね。これほど香りも味もよいお茶が流通していないとは、我が国の民が気の毒になります」
「まぁ! それほどまでに気に入っていただけて、とても嬉しいですわ」
ダイアナの向かいには、グレンがいる。
先ほどまで、二人の膝の上には猫の姿になったフローラとアイリスが微睡んでいたのだが、寝入ったのを機に侍女たちが連れて行ってしまい、今は二人きりだ。
ティアルに来てからのグレンの毎日は、かなり慌ただしかったと言える。それに、気も遣ったはずだ。なにせ、王族の皆がこぞってグレンに構いまくるのだから。
そんな日々を振り返り、ダイアナはグレンを労った。
「グレン様、毎日本当にありがとうございます。特にリオンやフローラ、アイリスは、もうすっかり懐いてしまって。相手をしていただけるのはとてもありがたいのですが、グレン様はグレン様のお時間をもっと大切になさってくださいね。私たちに構ってばかりだと、いろいろと大変でしょう?」
基本、グレンは王城にいる。偶に王都に出ることもあるが、その際も王族の誰かが一緒である。
一番最初など、王太子であるジーンのお忍びに付き合わされていた。その他は、弟や妹たちの面倒を見てくれたり、姉であるイヴリンの話し相手にもなっている。
グレンはいつも穏やかで、王族であろうが使用人であろうが礼儀正しい。
それが好ましく、あっという間に城内で人気No.1になってしまったのだが、そういうこともあって、彼が一人でいることなど滅多にない。だからこそ、気疲れもあるだろう。
しかし、グレンは柔らかな笑みを浮かべ、小さく首を横に振った。
「いいえ。私はティアル王国に来て、毎日が楽しくてたまらないのです。マネルーシでは、いつも仕事に明け暮れていました。いえ、仕事は好きですのでそれは構わないのです。むしろ、仕事に逃げていたというか……。しかし、こちらでは仕事から離れ、のんびりさせていただいています。王族の皆様にもお気遣いいただき、マネルーシでは味わうことのできなかった楽しさを今、満喫しているのですよ」
「仕事に逃げていた……?」
ふと気になったことを呟き、ハッとする。
しまった、返事に困るようなことを言ってしまった!
ダイアナは慌てるが、グレンは「大丈夫ですよ」と微笑む。その微笑みは、見る者を安心させる。
穏やかで、優しいグレン。
アレクサンドラは、どうしてこんな素晴らしい人を貶めることができたのだろうか。
ダイアナは不思議でならない。
グレンはダイアナから少し視線を逸らし、自嘲するように言った。
「自分の感情を抑えることが苦しくて、私は仕事に逃げていたのです。仕事を言い訳にして、あの方を避けていたのですよ」
あの方。それは、婚約者であったアレクサンドラのことだ。
グレンはそうしなければならないほど、彼女が苦手だったのだろう。
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