ダイアナとグレン

1/2

206人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

ダイアナとグレン

 ティアル王国は、今日もいい天気だ。爽やかな風も吹いており、気持ちがいい。  こんな日のティータイムは、庭園のガゼボで楽しむことが多い。 「今日のお茶も、とても美味しいですね」 「本当に? それはよかったですわ。このお茶はティアルの名産で、マネルーシでは流通していないでしょうし、お口に合うか不安でしたの」 「そうだったのですね。これほど香りも味もよいお茶が流通していないとは、我が国の民が気の毒になります」 「まぁ! それほどまでに気に入っていただけて、とても嬉しいですわ」  ダイアナの向かいには、グレンがいる。  先ほどまで、二人の膝の上には猫の姿になったフローラとアイリスが微睡んでいたのだが、寝入ったのを機に侍女たちが連れて行ってしまい、今は二人きりだ。  ティアルに来てからのグレンの毎日は、かなり慌ただしかったと言える。それに、気も遣ったはずだ。なにせ、王族の皆がこぞってグレンに構いまくるのだから。  そんな日々を振り返り、ダイアナはグレンを労った。 「グレン様、毎日本当にありがとうございます。特にリオンやフローラ、アイリスは、もうすっかり懐いてしまって。相手をしていただけるのはとてもありがたいのですが、グレン様はグレン様のお時間をもっと大切になさってくださいね。私たちに構ってばかりだと、いろいろと大変でしょう?」  基本、グレンは王城にいる。偶に王都に出ることもあるが、その際も王族の誰かが一緒である。  一番最初など、王太子であるジーンのお忍びに付き合わされていた。その他は、弟や妹たちの面倒を見てくれたり、姉であるイヴリンの話し相手にもなっている。  グレンはいつも穏やかで、王族であろうが使用人であろうが礼儀正しい。  それが好ましく、あっという間に城内で人気No.1になってしまったのだが、そういうこともあって、彼が一人でいることなど滅多にない。だからこそ、気疲れもあるだろう。  しかし、グレンは柔らかな笑みを浮かべ、小さく首を横に振った。 「いいえ。私はティアル王国に来て、毎日が楽しくてたまらないのです。マネルーシでは、いつも仕事に明け暮れていました。いえ、仕事は好きですのでそれは構わないのです。むしろ、仕事に逃げていたというか……。しかし、こちらでは仕事から離れ、のんびりさせていただいています。王族の皆様にもお気遣いいただき、マネルーシでは味わうことのできなかった楽しさを今、満喫しているのですよ」 「仕事に逃げていた……?」  ふと気になったことを呟き、ハッとする。  しまった、返事に困るようなことを言ってしまった!  ダイアナは慌てるが、グレンは「大丈夫ですよ」と微笑む。その微笑みは、見る者を安心させる。  穏やかで、優しいグレン。  アレクサンドラは、どうしてこんな素晴らしい人を貶めることができたのだろうか。  ダイアナは不思議でならない。  グレンはダイアナから少し視線を逸らし、自嘲するように言った。 「自分の感情を抑えることが苦しくて、私は仕事に逃げていたのです。仕事を言い訳にして、あの方を避けていたのですよ」  あの方。それは、婚約者であったアレクサンドラのことだ。  グレンはそうしなければならないほど、彼女が苦手だったのだろう。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

206人が本棚に入れています
本棚に追加