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「でも読めるし、覚えてもらえるじゃん。何が嫌なんだよ」 「役柄が好きじゃない」 「そんな詳しくないから判らないよ」 「主人公の最初の正妻なんだけど、年上で、今一つの仲だったんだ」 「それが原因?」 「いや、それが子供ができて上手くいきそうだったところに、主人公の愛人の物の怪に殺される」 「へえ。でもどっちかというと、その物語? より、三つ葉葵の紋所の方が浮かんじゃうんだけど?」 「……水戸黄門かよ」 「かわいいじゃん。ハートの形」 「可愛いって言われてもなあ」 「可愛いの好きじゃない?」 「……いま一つ」 「そう? 俺は結構好きだけど」  さくっと。  真っ直ぐ言葉を投げかける奴だった。  どう返していいか判らず口をもごもごさせていると、不意に奴はこう言った。 「あのなあ。オホーツク側に、もの凄い道があるんだと」 「道?」 「何にも無い道が16㎞も続いているんだと。村道なんだけど」 「何にも無い道? オロロンラインも相当だったけど」  俺が来た日本海側の道はそう呼ばれている。  坂が無いのはありがたいが、何十㎞もただひた走るばかりの道だ。 「あーそれは言えてる。まあでも写真で見た感じでは、右を見ても左を見ても山も海も無い、ただ野っ原の中に一本道があるだけなんだぜ? よかね?」 *  そうして翌日、二人してオホーツクの向かい風に苦しめられたのだが。
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