太宰治と白樺派

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太宰治と白樺派

雀斑男の言ったことが、頭の中で反響している。ダザイ。だざい。太宰。_太宰治。 …僕が? そんな、何故。どうして。 ぐわんぐわんと頭が揺れる。 嘘だ そう思ったのは、何故だろうか。 「……は、は。何を、言ってらっしゃるんですかね。そんな冗談、やめてくださいよ。」 乾いた笑みが溢れる。喉が酷く乾いて、頭、可笑しいんじゃないですか。という言葉が、引っ掛かって出てこなかった。 「はて、冗談。  僕は全く冗談を言ったつもりはないのですがね。」 雀斑男は、不思議そうな顔をして、肩を竦めた。 「……君が困惑するのは無理もない。  だが聞いてくれ。これは事実であり、冗談ではない。」 雀斑男のうしろに控えていた、男が言った。男は、顔がよく整っていて、美しかった。けれど、それは何故か、僕を不快にさせた。 「…いや、あの。  知りませんよ、そんなこと。  …根拠。そう、根拠は?ないでしょ!  あと、あと、警察呼びますよ?…ってか、あなた達誰なんですか。まずは名乗るのが礼儀ってもんでしょう!」 びしり、と人差し指を男たちに向ける。怒りと、恐ろしさと、それからなんとも言えない不可解な気持ちが僕の心を包囲している。 「ふむ。たしかに、それはそうですね。  申し訳ありません。  僕たちは、白樺。  僕はリーダーの武者小路と申します。」 雀斑男は、この空気に見合わない柔らかな笑みを浮かべ、言った。恐らくこの男は、空気が読めない人種なのだろう。 「…俺は…志賀、という。」 ドクン 美しい男がそう名乗った瞬間、僕の身体中の血液が、沸騰したかのような錯覚を覚えて。 気持ちが悪くて、吐きそうだった。 「、は、  ……し、が、…?」 「…ああ。  ………君は今、思っているのだろう。」 志賀は、淡々と真っ直ぐな声を紡いだ。やめてくれ。それ以上、言わないでくれ! 心の中でそう叫んだ。 けれど、彼はやめてはくれない。 「…この男が、嫌いだ。と」 「やめろ!」 耐えきれなくなって、思わず叫んだ。 志賀は、ぴくりと小さく眉を潜めた。やめてくれ。そんな目で見るな。 蔑むような、同情するような、弱いモノを見るような目で。 「その気持ちは、君の前世の感情に引き摺られて出てきたものだ。 …これが根拠だ。納得してくれるだろうか。」 志賀が、静かな、低い声で告げた。 喉が引き攣ったような音がする。 「…っんな、こた、言われたって!  分かんねーよ!  何が根拠だ!全く根拠になってないよ!  もっと上手く説明できないのかよ!」 叫び散らす。そして、僕はこの時、自分が叫ぼうとした言葉に気がついて、固まった。 "カミサマのくせに!" どうして、そんなことを言おうとしたのか。 僕には分からない。かの字の口を開いたまま、止まった僕を見て、男たちは不審げな顔をした。 「おい」 「……帰れ!」 志賀が、僕に声をかけようと口を開いたが、僕はそれを拒んで、勢いよく扉を閉めた。 閉める直前。 何故か、志賀が泣きそうな顔をしていたように見えたのは、気のせい、だろうか。
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