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私にはないもの
別の日の講義前に。
私は黒助くんにお近づきになりたいと思う。
好きな人と付き合えるか?
付き合えるならそれほど喜ばしいことはないが、近くにいて黒助くんの一喜一憂する姿を見て分かち合えれば幸せに違いない。
だが問題があるとすれば。
私に勇気がない。
好きな人にどうやって?
きっかけなどない。
私がなんとかして手繰り寄せるしかないという絶望が私を押し潰す。
「絵馬、アルバイト助かったよ。お金なくて本当に。ごめんね、ノートも見せてもらって」
「いいけど。私がいつも書いてるのを見せてるだけだから」
「ごめんごめん。絵馬は優しくていい子だね。絵馬が誰かのものになるなんておじさん悲しい」
瑠花は相変わらずお調子者だ。
目の下にクマができているけど。
大学の学費を自力で稼ぎたい、これから免許を取りに行きたい、でもやっぱり遊びたい、と瑠花は無理をしているらしかった。
「講義休みすぎたらテスト受けても単位でないってば」
「うん。分かってる。任せて、相棒」
「相棒って言ってもだめなものはだめですが?」
瑠花の頭をノートで軽く叩く。
てへ、と舌を出す。
瑠花も私にないものを持っている。バイトはしてるが、学費も自動車学校のお金も親持ちだ。
私には、根性がない。
だからいつまでも染まるしかない。瑠花とも黒助くんとも違って、私はというと自慢だった金髪をいつまでも黒く染めている。
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