子犬はオオカミさんに包まれていたい♡④

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子犬はオオカミさんに包まれていたい♡④

「今頃近衛先輩何してるのかな......」 箒を握りしめながら光琉はハァとため息を吐いた。 光琉はさっきから同じ場所を、ずっと掃き続けている。 「なぁ、牛斗?」 牛斗を見つめてそう話しかけると、答えるようにチラと牛斗がこちらを見る。モォ~と泣き声を上げ、寂しそうに眉を下げた光琉の体に牛斗が鼻を擦り付けた。まるで慰めるような仕草に光琉は微笑みを浮かべその体を撫でた。 光琉はいつものように日課である牛舎の掃除をしていた。正直すでに掃除は終わっている。そして今日の分の動物たちの世話もとっくに終わっているので宿舎に帰ってもいいのだが、光琉は何故か牛舎の中に佇んでいた。 「............」 光琉は無言で牛斗を撫で続ける。 (だって! 帰っても近衛先輩いないんだもん!) 誰に聞かれてもいないのに、光琉は言い訳のように心の中で叫ぶ。そしてハァとまたため息を吐いた。 近衛が研修に出かけてまだ一日しか経っていない。だけど妙に家の中が静かで、だたでさえ広い宿舎が、近衛がいないと更に広く光琉は感じていた。 (近衛先輩がいる時は、宿舎が広いなんて思ったことないのになぁ......) 近衛がいるだけで、いつも雰囲気が明るくなるし、太陽のような近衛が家の中にいるというだけで、光琉は安心感を感じていた。それに。 光琉はいつも、しょっちゅう、暇さえあれば、いや常に、近衛に触られ撫でられ抱きしめられているのだ。一緒に住むようになった今となっては、それがもはや光琉の日常の一部となっていて。 近衛の温もりがないというだけで、妙に心の中がざわめいて落ち着かない。 光琉はまた無意識にため息を吐きそうになってハッとする。 (そうだ!) あることを思い出し、光琉は自分の右手の手首を見て、デレッと顔をニヤケさせた。 (これがあるから大丈夫だもんね!) 光琉が見つめる手首、そこにはくっきりと赤い痕が付いていた。その痕に光琉はふふと口元を綻ばせる。 それは近衛に付けてもらったキスマークだった。 出発する時、寂しくなった光琉は、キスマークを付けて欲しいと近衛にねだったのだ。光琉のお願いに近衛は驚いた顔をしたが、すぐに「可愛いな。光琉はほんとに」と笑顔になった。常に自分から見えるところがいいと手首に付けて欲しいとお願いしたのだが。 「大正解だったな~」 今朝から光琉は何度も自分の手首を見ていた。くっきりと自分についた赤い跡。それを見るだけで、くすぐったさと幸せな気持ちが広がる。一瞬で近衛の存在を感じて、ホッと光琉は安心感に満たされた。 実は近衛にも同じ場所に付けて欲しいとねだられたのだが、医療研修中にそんなものが見えたら、近衛はともかく他の人の集中力を下げてしまうのでは? と思い諦めて思った。 その時の近衛の拗ねた顔を思い出して光琉に笑みが零れる。狼が耳を垂らしてキューンと鳴いているような近衛はとても可愛かった。 「............よしっ!」 光琉は気合を入れる。キスマークと、近衛の姿を思い浮かべるだけで、心が明るく温かくなってくる。 顔を綻ばせたまま、光琉はちゅっとその赤い痕に口付けた。 「大丈夫! 一週間なんてあっという間だ~~」 光琉は拳をぐっと握りしめる。 「近衛先輩が帰ってきた時に驚くように、牛舎をピカピカにするぞーー!! なっ牛斗」 やる気が沸いてきた光琉はそう叫んで作業着の袖を捲った。それに答えるように、モォ~と牛斗が鳴き声を上げた。
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