子犬はオオカミさんに包まれていたい♡⑪

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子犬はオオカミさんに包まれていたい♡⑪

目を覚まし光琉と名乗った彼は、とてもとても愛らしかった。 明るく元気な性格で、コロコロと変わる表情を見ているだけで癒やされる。 今も勉強中の光琉の可愛い横顔を見つめながら、近衛は口元をニヤけさせていた。 (あー可愛い。ちっさい、抱きしめたい) 見てるだけで胸がギュッとなり構い倒したくなる。 (まあでもさすがに、嫌がられるよなぁ......) 初めて会った時は、光琉の可愛さにテンションが上がっていたが、冷静に考えると上級生しかもこんな大男に抱きしめられ怖がらせたのではないか? と近衛は思い直していた。 ここはちゃんと信頼を得てから構い倒そう、近衛は考えていた。 「うー、んと......」 光琉がノートに向かいながら難しい顔をする。どうやら分からないところがあるようだ。気持ちが顔にでるからすぐに分かる。可愛いな、と近衛は瞳を細め、光琉の頭を撫でた。 「光琉、分からないところがあれば言えばいい。何度でも説明してやるから」 「でも......」 「遠慮すんな。そのために俺がいるんだから」 「......ありがとうございます、近衛先輩」 近衛の言葉に光琉がはにかむように笑う。 「ふふ、可愛いな」 その笑顔が可愛くて、近衛はさらに光琉の頭を撫で、ハッとする。 (いや、思ってるしりから撫でてどうする) 近衛は名残惜しそうに光琉から手を離した。 どうにも光琉を見ていると我慢が効かない。近衛はふうと自分を落ち着かせるように息を吐きた。 近衛の部屋の机で椅子を並べて、二人は勉強していた。ここは研修用の建物でもあるので、ちゃんとした教室もある。たが、光琉になら自分のパーソナルスペースに入られてもいいな、と思い近衛は自分の部屋で教えることにした。ここの方が資料も揃っているし、決して下心などない、ない......多分。 噛み砕いて何度か説明していると、眉を寄せていた光琉の顔が明るくなってくる。 微笑ましくそれを見つめていると、急に光琉が近衛の方に振り向いた。 「分かった!」 そう明るく言うと、光琉は近衛を見つめにこっと笑顔になった。 嬉しそうな瞳を近衛に向ける光琉は、分かったことを飼い主に知らせるワンコのようで、それはそれは可愛らしかった。 (なんでこんなに可愛いんだ) 知らずまた頭を撫でそうになってハッとする。 (だからダメだって......) 近衛はどうにかそれをぐっと堪えた。 「狼上先輩の説明、めちゃくちゃ分かりやすいです!」 そんな近衛のことなどつゆしらず、光琉はさらに可愛らしいことを言ってくる。 そして近衛を見てふわりと微笑んだ。 「きっと普段からいっぱい勉強してるんだろうなぁ......すごいなぁ......」 「っ......」 それは思わず言葉が零れたと言うような話し方だった。だからこそ、光琉の言葉にはお世辞も嘘もないことが伝わってきて。 とても近衛の心に響いた。 「光琉」 「わっ......!」 気づいたら近衛は光琉を抱きしめていた。ギュッと抱きしめ、髪に顔を埋める。 きっと光琉にとっては何気ない言葉だったかもしれない、だけど近衛にはとても深く響いた。 獣医にも医者にもなるって決めたのは自分だ。だから、どんなにつらくても弱音なんて吐かないってそう決めて、人一倍、いや人の何倍も頑張ってきた。周りに分かってもらおうなんで思っていなかったけど。 「光琉の覚えが早いんだよ」 光琉にとっては何気ない一言だったかもしれない。だけど近衛はとても嬉しかった。 「ても...ありがとな......」 少し声が掠れる。首元に甘えるように顔を埋めようとした時、そっと光琉が近衛の腕に触れて慌てて顔を上げる。 (やべ、思いっきり抱きしめてる) さっき、いきなり抱きしめたら怖がらせるかもと考えたばかりなのに。どうも光琉が相手だと堪えがきかない。近衛はそっと腕を解こうとした。 だけど近衛の思いとは裏腹に、光琉は近衛の腕をキュッと握った。 「もぉ......びっくりするじゃないですか......」 小さい声でそう返すが、腕は振り解かれることなく、光琉は近衛の腕の中に大人しく収まっている。 (え、これって......) よく見ると光琉はほんのりと頬を赤く染めていた。恥ずかしそうにしているが、近衛に抱きしめられて嫌そうな素振りはみじんもない。 (抱きしめても、いいってことか?) そう思った瞬間、嬉しさがこみ上げる。近衛は遠慮なく光琉をぎゅうぎゅうと抱きしめる。 「可愛いな光琉。ほんとかわいい」 「もぉ......狼上先輩!」 咎める声を出すが、相変わらず光琉は大人しく近衛に抱きしめられている。 その小さな体を抱きしめているだけで、自分の中に欠けていた何かが埋まっていくような気がした。 (愛しいって......こういう気持ちなんだな......) そっと柔らかな髪に頬を寄せる。答えるように腕を握る光琉の手の力が強くなった。 その日から箍が外れた近衛は、光琉を愛しいと思う気持ちを隠さなくなった。 その気持ちに応えるように、光琉に触れ、抱きしめるたび、光琉が体を預けてくれる。撫でられるととても心地よさそうに瞳を蕩させる。 毎日のように、可愛さを更新する光琉。 可愛くて、ずっと一緒にいたい、ずっと触れていたいと言う気持ちはあっと言う間に大きくなった。
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