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横峯は青ざめて唇を引き結んで幽霊のように立っている。その雰囲気はいつもと全く違い、普段は優しげな表情が今は硬く引き結ばれている。
物々しい重たい空気に、高大の高揚した気持ちは冷水を浴びせられたようにスッと引いてしまった。
「どう、したの?」
恐る恐る、高大は横峯に聞いた。
「ごめん……」
つぶやくように、横峯が言った。
「え……」
高大が、その言葉を消化しきれないうちに、横峯の目から水滴がホロホロと落ちる。泣いていると思った時には、横峯は高大を玄関先に押し倒した。
「ごめん、離してあげられなくて」
どういうこと、と聞こうとした高大の唇は横峯の唇によって乱暴に塞がれる。
優しくないキスなのに、どこか丁寧で、傷をつけるわけではないそれに、高大は身を任せる。
横峯は、荒々しく高大の服をはいでいく。
高大は、横峯の背に手を回すと、背中をトントンとリズムよく叩いた。
あの時横峯が高大にしてくれたように、泣いている横峯に大丈夫だと伝えたくて。
横峯がふと止まる。
高大は横峯を抱きしめ、そのまま背中をトントンする。
「……落ち着いた?」
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