大和撫子アイデンティティ

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大和撫子アイデンティティ

わかってる。 我ながらさすがにやりすぎている。 自覚は十二分にある。 「長い・重い・黒い」の三拍子揃った黒髪を伸ばしに伸ばして、もう太ももに到達するレベルで伸ばしているのは——さすがにやりすぎている、と。 当然、周囲の噂になっていることだって知ってるし、噂の詳細な内容だって把握している。 クラスメイト曰く、「マジ不気味だよね。なんかもうアニメじゃん」「アレに似てない? ホラーチャンネルとかに出てくる呪いの和服人形!」だそうで。 それを言うなら市松人形だろ。いまの高校生は市松人形も知らんのか。いや私も現役高校生だけれども。 「呪いの人形」——精巧に作られた日本人形の髪が何故か伸び続けるという怪奇現象——私はその怪奇現象そのもの、喋るホラーチャンネル、生きる市松人形だとクラスメイト達は言いたげだ。 ——でもそれでいい。その評価は「正解」だ。 大大大大大正解。私の伸ばしまくった髪はそれを意識しているのだから。 「おはよう百合ヶ崎さん! 今日も...その、素敵な黒髪だね」 毎朝毎昼毎夕欠かさずにこやかに笑みを浮かべ話しかけてくれる彼のために伸ばしているのだから。 そう彼のためだけに。 「長く・重く・黒い」は、私の愛の証なのだ。 「ホントに...いい黒髪...この前の市松ちゃんそっくり...! あっ、そういえばこないだアップした動画観てくれた?? 廃墟探検の動画なんだけど、そこでまた新しい市松ちゃん達に出逢っちゃってね! それがまた——」 今日もスイッチの入った彼の喋りは止まらない。ホラーチャンネル愛好家であり、自身も動画配信者として怪奇現象を追いかける彼の、「好みのオンナ」でいるために。 1日0.3mm愛はのびていく。
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