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シャワーを浴びながら、流れでこんなことになった、と今さらどうしたらいいかわからなくなる。
「……今だけ……」
呟きは思いのほかしっかり広い浴室に響いた。そう、今だけなのだ。流されるほうが楽かもしれない。
浴室のドアが開き、実近が入って来て身体が固まった。
「身体洗ってあげる」
「え、遠慮します」
「いいから。今は甘えなさい」
少し強引に抱き寄せられた。ボディソープを手のひらで泡立て、肌を撫でられる。身体の隅々まで丁寧に優しく洗われ、その知らない感覚に肌が火照り出す。膝ががくがくと震えはじめ、実近に支えられた。抱きしめるように背中を洗われ、濡れた肌が触れ合う。肌を撫でる手は熱くて大きい。
「小牧くん」
「あ……」
ゆっくりと視線が絡み、啄むように唇が重なった。嫌だと思えないほど優しいキスに溶けていく。
「ん……っ」
大きな舌が口内に滑り込み、粘膜を愛撫する。くらくらするほど気持ちよくて、身体がどんどん熱くなっていく。微かにアルコールのにおいがするキスは小牧を酔わせた。熱いシャワーで泡を流されてますますぼうっとなる。
「おいで」
手を引かれて浴室を出た。タオルを身体に巻かれ、実近はバスローブを無造作に羽織る。ベッドに寝かされ、大きな身体が覆いかぶさったところで怖くなった。
「あの、……やっぱり……」
「大丈夫」
「でも」
首を横に振る小牧に唇を重ねた実近は、耳もとに顔を寄せる。
「大丈夫。今だけ楽しめばいい」
甘い囁きにぞくりとする。はだけたバスローブから覗く身体は引き締まっていて、思わず見惚れる。
諒に抱かれることは一生ない、とわかっていたけれど、それが現実になったことを今さら実感する。諒が抱くのは小牧ではなく恵菜だ。
身体の力を抜くと、巻いたタオルを開かれた。ラッピングをとくような優しい手つきが恥ずかしくて顔を背ける。そんな小牧に、実近が口もとを緩めた。
「実紘って呼んでもいい?」
「……はい」
「俺は出流でいいよ」
「いえ……」
首を横に振る。ひとときの関係だとわかっているから、そこまでする必要はない。
「あっ」
「気持ちよくなれる」
その自信たっぷりな口調から、慣れていることがわかった。呆れよりも安心できて、実近に身体を委ねる。
「んぁ……っ、あ、やだ……恥ずかしいです……」
胸の突起を指先で転がされると変な声が出た。潰すように捏ねられ、腰が重く疼いた。
「大丈夫。可愛い」
「あぅ……あ、あ……」
今だけだから、「可愛い」なんて本心で思っていないだろう言葉も引っかかることなく受けとれた。
突起を唇で挟んで、舌で弾くように遊ばれる。もう片方の突起も指でつままれ、そこは芯をもってぷくりと膨らんだ。普段意識しない尖りから快感を拾う。淡い感覚は、たしかに身体を熱くした。
「実近さん……っ」
「ベッドでそう呼ばれるのは初めてだな」
「んっ……」
楽しそうに笑む実近の瞳に欲情が灯っている。
「実紘」
「あ……、あっ」
甘い囁きは骨まで溶かす。優しい愛撫に心酔し、緊張もせつなさもほどけていく。しずくをしとどに零す昂ぶりを巧みに扱かれ、腰が浮いた。あっという間に追い詰められていく。
「だ、め……いきそう……」
「うん。いいよ」
「あっ、あ、あっ」
高める動きに導かれるまま、白濁を放った。息を喘がせる小牧に、実近は目を細めてキスをした。口の中が舌でいっぱいになり、息苦しいのに気持ちいい。上顎を舌で撫でられ、ぞくぞくと快感が駆け抜ける。
「はあっ……」
「まだ怖い?」
「……大丈夫、です」
不思議と気持ちが落ちついている。「今だけ」は魔法の言葉かもしれない。どんなに恥ずかしい姿を晒そうと、この場限りと思えば感じるまま乱れることができる。
「ん……」
窄まりを撫でた指がゆっくり忍び込む。違和感に眉をひそめると、眉間にキスが落ちてきた。丁寧な動きで孔をほぐされ、徐々に後ろからも快感を得られるようになる。
「前にも経験あるの?」
「な、いです……。キスも、初めて……」
「そうなんだ」
諒だけだったので、誰かとつき合ったことなどない。一度限りなどもっとない。よく知らない相手に身体を暴かれる非現実に溶かされる。じっくりと拡げられ、指が増えても痛みはなかった。
「初めてなのにすごく感度いいね」
「ああ……っ」
内襞を撫でられて言いようのない深い快感が湧き起こった。昂ぶりが張り詰め、ずくんずくんと疼く。実近の指は的確に快感を探りあてる。
「あっ……、だめ、また……いきそう……っ」
「いいよ。何回でもいって」
「ひ、あっ……あぅ、あ……っ」
内壁を押され、血液が沸きあがる。乱れる吐息は熱く、眼前は白く瞬いた。
「だ、め……いく……っ」
がくんと身体が強張り、弛緩する。ぴんと伸びたつま先がシーツに皺を作った。
「はあ……っ、あ、ああ……」
くたりと力が抜け、ベッドに身体を預ける小牧の脚を実近が左右に大きく開いた。内腿にキスをされ、腰にも唇が触れる。
「すごく可愛い」
地味な小牧にそんなことを言う人がいるとは思えない。この場限りの言葉をかけられることも愛撫のようで、ほんのり身体が疼く。
両脚を持ちあげ、実近が自身の熱を綻んだ窄まりにあてがう。
「実紘」
「んぁ……はあ……っ」
肌を熱くするキスに夢中になっていると、中が昂ぶりを迎え入れた。押し開くように奥へと進み、実近がせつなげに顔を歪める。それがあまりに綺麗で、窄まりがきゅんと締まった。
「可愛い反応するね」
「あぅっ……あ」
頬を撫でられ、耳もとに熱い吐息が触れる。すべておさまると実近は息をつき、小牧を抱きしめた。
「痛くない?」
「大丈夫です……」
「よかった」
微笑む笑顔に汗が滲んでいて、男らしい色気に惑わされる。ゆっくりと抽挿が始まり、律動とともに激しいほどの快感に呑み込まれた。
「ああっ……、あっ、あっ」
「可愛いよ、実紘」
髪を撫でられキスをされ、甘い言葉と未知の快感。小牧を乱すには充分すぎるそれらに翻弄され、大きく仰け反る。最奥を穿たれ、ひと際甘美な痺れが迫ってきた。
「や、だめ……あっ」
指以上に的確な動きは、小牧をせつなく追い詰めた。いくらも経たないうちに再び絶頂感がせりあがってきた。
「また、いく……だめ……」
内腿が引き攣る。導くように続けて最奥を穿たれ、中をかきまわされたら自分でも驚くような糖度の高い声が溢れ出た。
「ほら、実紘」
「い、く……いっちゃ……っ、ああ、あ……っ」
痙攣しながら白濁を零す小牧の中で実近の昂ぶりが膨らんだように感じた。息が整うまで動きを止めてくれたが、再び律動が刻まれるときには実近も限界が近いのがわかり、それがなぜか欲情を燃え滾らせた。実近の背に腕をまわしてしがみつく。
「実近さ……っ、ああっ……」
内で膨張した熱がどくんと脈打つ。欲望を吐き出している感覚に、小牧も軽い絶頂に達した。
すべてが終わると急に冷静になって、どうしてこんなことをしたのだろう、という気持ちになった。そんな小牧の髪を撫でながら、実近が囁く。
「小牧くんは流されただけだ。悪いのは俺」
「そんな……」
「深く考えなくていい」
それでも身を委ねたのは小牧の意思だ。熱くて重い身体が自分のものではないようにベッドに沈んでいる。
甘いセックスは諒に抱かれているようで、だが諒のことを考える余裕もなかった。実近に抱かれることで一瞬でも諒の存在が頭の中から消えた。それは救いだった。
自宅まで送る、と言われたが断った。だるい身体を引きずるようにひとりで帰宅した。部屋に入ってベッドに座ると、後悔が襲ってきた。それでも諒を思ってひとり沈んで絶望に泣いていたかもしれないことを考えると、存分に甘えさせてくれた実近に感謝を覚えた。
だがこれは一度きりだ。
静かにベッドに入ると、疲れからすぐに眠りについた。
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