ショートショート 小さな願掛け

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 僕には好きな子がいる。でも時々話すだけで特別仲がいい訳じゃないから、きっと彼女にとって僕はただのクラスメイトってレベルなんだと思う。  僕なんてちょっと目が合えば嬉しいし、話が出来たらその日はめちゃくちゃ幸せな気分になるんだけど。  そんな僕は、学校に行く時にちょっとした願掛けをしている。それは、 『学校に着くまでに、5台以上の車とすれ違ったらあの子と話せる』  というものだ。  大通りに出ればたくさんの車が走っているけど、通学路は住宅街を通っていくからあまり車は通らないのだ。  学校までの約10分。僕の勝負の時間だ。  出発からすぐに黒い軽自動車が通り過ぎていった。 「よし!今日はいいかも」  続いて白い軽自動車が後ろから僕を追い抜いていく。 「いいねいいね。でもあの白い車は毎日見てるからな。これからが勝負」  立て続けに2台とすれ違ったものの、それからはなかなか車が通らなかった。そんなやきもきする僕を笑うように自転車に乗ったおばさんが横を猛スピードで走っていく。  すると前の方にワゴン車がこちらに向かって走ってくるのが見えた。 「そのまま。来い来い」  しかし僕の願いは届かずにワゴン車は交差点を左に曲がっていってしまった。 「うおい!」  ちょっとずつ焦る僕。  学校まで残り3分。次の信号を右に曲がれば学校はすぐそこだ。 「今日はダメなのか?」  諦めかけていた僕に奇跡が起こる!  交差点を曲がったら、信号待ちの車が2台あったのだ! 「あと1台・・・!」  校門はもう目の前。  来る。きっと来る。 もう足踏みして車が通るのを待ちたい気分だ。  来るなら今でしょ?!  来いよ。来て。お願い!  ・・・しかし。  無常にも車が通ることはなく、僕はがっかりした気分で学校に入っていくのだった。  下駄箱で上履きに履き替えた僕は何事もなかったかのように(何事もなかったのだが)教室に入った。すると、 「あ、おはよう。橋本くん」  本日最大の奇跡!  朝から岸さんに挨拶されてしまった! 「おはよう、岸さん」  僕はニヤニヤしないように返事をする。  ・・・我慢しすぎて不機嫌な顔になってないよな?  願掛けなんてもう頭から飛んで行って、僕は今日も幸せな気分で1日を過ごすのだった。 終わり
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