モノトーン

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「また真由(まゆ)はそうやって無駄な物を買おうとする」  隆利君のそのセリフに、私はチョコプリンを取ろうと伸ばした腕を引っ込める。 「そんなのただの砂糖と脂肪の塊だろ? 太る為にお金かけるって無駄じゃない?」  私は黙ってスーパーマーケットの綺麗に磨かれた床を見つめる。  自分だって炊飯器の色の為だけに1200円もかけたくせに。  チョコプリンは180円。6個買ってもお釣りがくる。  モヤモヤ……モヤモヤ……。    でもそこで言い返せない自分自身にもモヤるんだ。  私の中で黒い思いが渦を巻く。 「子供ができたらもっと節約しなきゃならないんだから、今のうちから慣れとかないと」  隆利君はそう言ってニコリと笑う。  細められた瞼の奥の濁りのない黒は真っ直ぐにこちらに向けられている。  自分の正しさというものを信じて疑わない眼差しだ。  結婚前、隆利君のぐいぐい引っ張っていってくれる頼り甲斐があるところが好きだった。  優柔不断な私には、決断力のある隆利君がとても大人に思えた。  でも一緒に生活するとなると違うみたい。  何でも一人で決めてしまう隆利君に、私の中で言葉にできないモヤモヤしたものが少しずつ溜まっていく。  確かに隆利君が言っていることは正しい。  甘い物を食べながら「痩せなくちゃ」って言っている自分の言動は矛盾してると思う。  でもチョコプリンを我慢したって、その反動で会社帰りにコンビニスイーツを買ってしまうのだから、はっきり言って意味がない。  隆利君のように自制できる人ばかりではないのだ。    結婚前は隆利君の少し強引だけど頼もしいところが魅力的に思えたのに、最近は逆にそれが不満に感じるのだ。  でも多分、変わったのは私の方だ。隆利君は昔から変わらない……。    
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