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「ご馳走様」
隆利君はそう言って、碁石のような形の箸置きの上にお箸を綺麗に揃えて置いた。
彼はそのままソファに向かうとスマホを弄り始める。
今日の晩御飯はハンバーグ。
でも私は食欲がなくてご飯とスープだけ。
私が好物のハンバーグを食べなくても隆利君は何も言わない。
いや、気付いてすらいないのかもしれない……。
私はのそりと立ち上がると、食べ終わった食器を持ってキッチンに向かう。
無音の室内にはガチャカチャと食器を重ねる音だけが響く。
隆利君にとって私って何なんだろう……。
ふと視線をやると、スポンジラックに置かれているそれが目に入ってきて、何だか呼吸が苦しくなる。
「こんなのも売ってたよ」
昨日、会社から帰ってくるなり隆利君が鞄から取り出したのは、黒いキッチンスポンジ。
「ずっと気になってだんだよね。ここだけピンクで」
そう言うと彼は、キッチンにあるネコの形をしたピンクのキッチンスポンジを迷うことなくダストボックスに放り込んだ。
「ほら、スッキリする」
隆利君がキッチンスポンジを使うことなんて殆どないのに……。
100均で買った物だけどお気に入りだったのに……。
気が付くと私は黒いスポンジを強く握りしめていた。
それから滴り落ちる泡は白。
シンクに雑然と置かれた食器類も白と黒。
白と黒。黒と白ばっかり……。
もう嫌だ……。
私は慌てて寝室に向かう。
クローゼットの扉を開けて私は深く長い息を吐いた。
そこにかけられていたのは、ピンクや水色、フリルやレースに彩られた洋服達。
年齢的にもそろそろ落ち着いた服を着なくちゃ。
そう思うけれど、毎日白と黒にばっかり囲まれていると反動で可愛い服が着たくなる。
私がこういう服が好きだって知っている筈なのに、隆利君は何とも思わないんだろうか。
それとも私のことに興味なんてないのかな……。
「真由、どうしたの?」
リビングから隆利君の声が聞こえる。
多分彼が気になっているのは、私が汚れた食器類をそのままにしてるから。
私のことを心配してくれてる訳じゃない。
「ううん。何でもない」
どうせ隆利君に言ったってわからない……。
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