モノトーン

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 売り場にずらりと並べられたピカピカの洗濯機を見て、私は大きく頷いてみせた。  これだけあれば、機能や値段、色々と比較検討できそうだ。  広いフロアに並んでいる洗濯機の殆どは白。  どれを選んでも、モノトーンにこだわりがある隆利君にも納得してもらえるだろう。 「色々機能がついていたって使いこなせないだろ? 構造が複雑になればなるほど壊れ易いからシンプルなのがいいね」  普段、洗濯なんかしないくせに隆利君は物知り顔でそう言ってみせる。 「乾燥機能って必要かな……」  隆利君は独り言のようにそう呟く。  これは私に訊いてくれている訳じゃない。結局いつも自分で決めてしまうんだから……。 「……まあ、雨の季節とか、乾燥機能は必要かもしれないね」  隆利君のセリフに、私はコクコクと頷いてみせる。  けれど、隆利君には私のことなんて見えていない。  彼は「やっぱりメーカーは……」とか「家族が増えた時のことを考えて大きさは……」なんて言いながら、彼は沢山ある洗濯機を一つひとつチェックしていく。 「これなんて良さそう」  最終的に彼が選んだのは、シンプルでありながら洗浄機能の高い洗濯機だった。そして、乾燥機能付き。 「すみません」  隆利君は私の答えを待つこともなく、店員を呼びにいく。  もう慣れた。いつものことだ。  隆利君が私に意見を訊くことなんてない。  乾燥機能付きのものにしてくれただけでもありがたい、と思わなきゃ……。  それに、あの手絞りから早く解放されたい、とにかく私はそう思っていた。   「……配送ですが……早くて木曜日になりますね」  男性店員の言葉に、私は絶望的な気持ちになった。 「……平日は、昼間家にいないです……」  そうだった。洗濯機は炊飯器と違い、配送してもらわなければならない。  平日は仕事で家にいないから、最低でも来週の土曜日になる。  また1週間、手絞りの日々が続くのか……。   「申し訳ございません。土曜はもう埋まっておりまして、日曜の午後ならお取りできますが……」 「いいですよ。脱水ができないだけで完全に壊れた訳じゃないんで」    隆利君は何でもないようにそう答える。  自分の下着すら絞ってくれなかったくせに……。  洗濯機を使うのも、配送してもらうまで手で絞り続けるのも私なのに……。 「あ、お色の方はいかがなさいますか? 黒もございますよ」 「そうなんですか? じゃあ、黒で」  隆利君は嬉しそうに答える。  もうどっちでもいいと思った。  炊飯器のように値段が変わる訳じゃなし。  正直、日曜まで絞り続けなくてはならないショックの方が大きかった。 「あー、申し訳ございません……」  店員はパソコン画面を見ながら言いにくそうに続ける。 「黒は取り寄せになりますね。2週間程かかってしまいますが……」  えっ……。 「いいですよ」  即答する隆利君に、私の中で何かがプツリと切れたような気がした。  2週間ずっと手絞り?  隆利君はそれを誰がやるのかわかってるの?  いつも一人で決めて、結局やるのはいつも私。  大変なのは私だけ。 「……無理!」  二つのキョトンとした顔がこちらに向けられる。 「もう無理だから!」  そう叫ぶと私は店を飛び出した。
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