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「あっ、あそこ!」
黒鳥君の指差す方に目をやると、通りを隔てた先にある植え込みの間から覗いているのは、白黒の小さな顔だった。
こちらに向けられているつぶらな瞳は、何だか誘っているようにも見える。
「ああ、こんな時に限って信号、赤じゃん」
「うう、早く早く」
私は横断歩道の前で足踏みをする。
ペンギンは私達の方をじっと見つめていたかと思うと、不意に植え込みの中に隠れてしまう。
信号が青になった瞬間に走り出すと、黒鳥君は緑の葉の間を覗き込んだ。
「あー、いないね」
「さっきまでここにいたのに……」
ジェンツーペンギンは、泳ぐのも走るのも早く、ペンギン界のアスリートとも言われている。
とは言え所詮ペンギンはペンギン。
人間の全速力には敵わない筈なのに……。
「さっき葉があっちに向かって動いていったから、植え込みをたどっていってみようか」
私は大きく頷いてみせる。
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