【短編小説】行列

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「どういうこと?」 思わず私はひとりごとをつぶやいた。 遠くまで澄み渡る青空と、白い砂浜に鮮やかな貝殻が浜辺にたくさんうちあがる。いつか魅せられて、死ぬまでにいつか行きたいと願ってやまなかった、夢のようなビーチがあった。 私の興味をひいたのは、もうひとつあった。 目の前には、果てしなく長い行列。 白い砂浜のその先の先までずっと遠くまで長い行列があり、私がそのままあんぐりと口をあけていると、最後尾に女性が一人並んだ。 「なんの列ですか?これ」 その女性に私は声をかける。 「わからないわ、でも他に何もないし、ずっと先まで続いているから……とりあえず並んでおこうと思って」 弱弱しくそういった女性は、前の男性をちらりと見やった。 男性も両肩をすくめ、首を振っている。 そのまま私は列にかまわず前の方へと歩き出した。 たびたび、声をかけるが、誰もこの列が何なのかを知らずに並んでいた。 こうしている間にも最後尾がのびて長くなっていく。 不安を覚え、葛藤する。 もしかしたら、私も並んだほうがいいのかもしれない。 今、並んだらまだマシかも。 しかし、堪える。 なんの列かが、わからないもの。 最後尾が見えなくなるほど、私は歩きつづけた。 こうしている間に、どんどんと最後尾は長くなっていくのに、私はなんの列かを確認しに歩いていっていいのだろうか――……。 振り切るように頭を振り、ぎゅっと唇を噛み締める。 そうして眺めた列はまだまだ後にも先にも続いている。 そして本当に少しずつ列が進んでいるようにも見えた。 私以外に確認しようと歩いている人は誰もいない。 どのくらい、歩いたのか時間もわからない。 列は続く。 砂浜も、延々と続いていた。 ふと足を止める。 どうして、誰も知らないのだろう。 誰一人、その先を確認しようとしないのだろう。 輝く砂浜を見やる。 こんな素敵なビーチがあるのに見向きもせずに、どうして並び続けているのだろう。 再び歩く。 前の方に行けば行くほどに、並び疲れた人々の表情は疲れていた。 なぜ並んでいるのかも、わからぬままに、このまま離脱すればまた並び直しになる――そんな恐怖で、ひたすらそこに留まっていた。 「あ」 私は思わず目を見張った。 列の先には扉が一つあった。 反対側には何もない。 扉だけだ。 一人入って、少し間を置いたのち、また一人入っていく。 「どこに繋がっているんですか?」 声をかけたけれども、待ちわびた人々は私の言葉を無視した。 それどころか、横入りは許さないとばかりに睨まれる。 私は扉の裏側へと回り込む。 ――この扉の先は地獄。 走り書きがしてあった。 思わず私は声を失う。 いや、これでいいのかもしれない。 考えもしない人たちは、そこで延々と並び続ければいい。 私は靴を脱ぎ、裸足になった。 そうして、ビーチに向かって、ひとり走り出した。
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