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 小説が好きだ。小説は現実逃避できるから。主人公に感情移入して、その時だけ自分が主人公として生きられるから。現実世界ではただのモブだけど、小説を読んでいる時だけは主人公になれる。だから好きだ。そんな理由で小説が好きだと言っている自分がなんだか惨めにも思えてくるけれど、そんなのどうでもいい。  私は本屋で雫と別れ、新刊コーナーに向かった。読みたい本を何冊も買ってしまったらお小遣いがすぐに無くなってしまう。だから基本的には学校か市民図書館で借りているのだけど、やっぱりいいなと思った作品はずっと手元に残しておきたいと思ってしまう。  私はじっくり表紙や帯を眺めながら新刊を物色していると、一冊目を奪われた本があり、立ち止まった。水色と白で淡い色に塗り固められた背景に一人の少女が立っている表紙。表紙が薄い色のせいか、赤色の帯の色がより目立っていた。 ──恋とは、愛とは。その感情が私に向けられることはあるのだろうか。  私はスッと手を伸ばそうとすると、横からぬっと知らない手が出てきて思わず本から顔を上げた。私とそう身長の変わらない、平凡な顔をした男。その顔に見覚えがあった。葉月のグループに属している同じクラスの男子だ。 「田村(たむら)くん」 「和賀さん、偶然だね」  私はキョロキョロと辺りを見渡した。いつも葉月と帰っていたから今日もてっきり葉月と一緒にいるのかと思ったが、葉月の姿が見当たらなかった。 「葉月ならいないよ。今日は用事があるって言って俺、先に帰ったから」  そう言って田村くんが私にさっきの本を見せた。 「新刊の情報が出回った時からずっと気になってたんだ」 「それ、面白そうだよね」 「うん、即買い」  ニカッと田村くんが笑った。 「和賀さんも本読むんだね」
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