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***
「ん、んんん?」
ところが。
暫くすると、異変が始まることとなる。
五月、僕が友人を連れ込んで、家飲みしつつテレビを見ていた時だ。何度かアパートに招いたことのある友人・瀧川が、ふと壁を見て首を傾げたのだった。
「あそこの壁の染み、なんかでかくなってね」
「え」
彼が指さしたのは、リビングの東側の壁にある染みだ。そういえば、と僕は首を傾げる。ずっとこの部屋で暮らしていると気づかなかったが、最初は野球ボールくらいのサイズの染みだったような。それが、なんだか色が濃くなり、いつの間にかバスケットボール大まで広がっているような気がするのだ。
「ええ、マジ?なんか沁みてきてんのかなあ」
僕は壁に近づき、その染みをつんつんつついてみた。特に湿っているようなこともなし。変な臭いがするわけでもなし。ただ、カビなどだったらちょっと見た目的にも気持ちが悪い。
ちなみに僕が住んでいる部屋は角部屋なので、アパートの西端に位置している。外から何かが沁みてきているということはないだろう。東側の壁の向こうにあるのは、今はもう誰も住んでいない部屋だけだ。
「カビだったら体に悪いかもよ」
困り顔の僕に、瀧川が心配して言ってくれた。
「調べて貰ったらどうだ?あるいは、壁紙だけでも張り替えるとかさ」
「うーん、僕が引っ越してくる前に張り替えたって、不動産屋さんは言ってたんだけどなあ」
「金ないなら、俺カンパするぞ?そんくらいの余裕はあるし」
ほれ、と財布を見せながら彼は言った。その厚意は嬉しいが、彼も大学に通うために一人暮らしをしている身である。あまり甘えすぎるわけにはいかない。
ありがと、とお礼だけ言って僕はその提案を断ったのだった。
「僕はそんな気にならないし。まあ、これ以上大きくなるようなら考えるけどさ」
「そう?」
どうにも、瀧川は引っかかっているようだった。東側の壁を見て、ぽつりと呟いたのである。
「隣の304号室、ほんとに空き部屋なのかね。ちょっと見てみてもいいんじゃねえの?」
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