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1 呪楔《かしりくさび》
いつものように闇に紛れて閨に忍び、螢の額に唇を落とす。
霜の呪いによって深く眠る恋人は目覚めない、けっして。
だから何度だってつぶやけた。
好きだ、好きだ、おまえを愛してる。
それから無性にむなしくなる。――どうして俺はこうなる前に、螢を抱いてしまわなかったんだろう。
「俺はおまえを……、誰にも渡さない」
二年前、人としての俺は死んだ。
幼なじみの螢を庇ってへどろ沼に落ち、妖魔に右腕と両足を食いちぎられたのだ。
この降神島には王弟だった俺の墓もある。
だがその過去に未練はない。
現実に、今こうして俺は蘇っている。
それに復活とひきかえに誓約を術者と交わすことで、夜が続くかぎり恋人の夢枕に立つことも許された。
「螢、おまえは今、なにを考えているんだろうな。もう俺を忘れてしまったんじゃないか」
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