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だとしたらこの恋は報われない。
それでもどうしても螢を諦められなくて、死に際に交わした、いつか必ず戻るという約束を果たしたくて、時折こうして寝顔を見つめ続けてきた――だから今宵のこれは奇跡だった。
「嘘。黒髪に黒い瞳、その綺麗な顔、たたら……? たたら、なの……?」
「螢……、なんで、起きて」
声がかすれる。目の前の光景がまだ信じられない。
「これは夢……? それとも死ぬ前に誓ってくれた、いつか迎えに行くって約束を、果たしに来てくれたの……?」
螢が長い赤髪を揺らしながら、すらりと細い半身を起こし、まぶたをしばたたいている。
その白い頬に真珠色の光があたるのを見て、ようやく状況を理解した。
「呪が切れたのか……!」
月光には輝気も昏気も含まれるという。
おそらくそれが今夜、絶妙に作用したんだろう。だが今はそんなことどうだってよかった。
「螢、驚かないで聞いてくれ」
恋人の懐かしい声を聞いたとたん、理性など消し飛んでしまう。
白い寝間着姿で戸惑う身体を力のかぎり抱きしめた。
螢、螢、俺の螢。
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