1 呪楔《かしりくさび》

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 暖かくて柔らかで、深紅の髪からはほのかに鼻腔(びこう)をくすぐる薬油の香りがする。矢も(たて)もたまらず、耳元へ(ささや)いた。 「時がない。俺はおまえと(ちぎ)りたい。たのむ、何も言わずにどうか俺を受け入れてくれ」 「は……? ええっ、たたら、い、今?」 「今ここでだ」  腕の中で身じろぐ(ほたる)を抱きしめながら、舌打ちしたくなった。  すまない。ごめんな。死んだはずの男が突然現れて、わけのわからないことをほざいて、さぞ混乱しているだろう。  本当はこんなはずじゃなかった。 俺にとって(ほたる)は世界で唯一(ゆいいつ)、大切な女で……だからこそ王弟だったころは、生涯(しようがい)忘れがたい初恋をさせてやりたいと願っていた。 俺にできなかった(きよ)くて美しい経験を、(ほたる)にはすべて(あた)えたくて。 体を結ぶのなんて、そのあとでいい。愛欲の味を覚えてしまったら、きっともう、後戻りはできなくなるだろうから。 「……いいよ、たたら」
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