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しかしどうやら螢はこの昴に誘われて天霊門を通りぬけてしまったようだ。
まずい。戦慄した。このままでは螢が本当に手の届かない処へつれさられてしまう。紫水はまだ届かないのか。
(いや、待てよ。これは現在進行中の話じゃないかもしれない)
冷静になって考える。地下と地上、それに天では時の流れかたがちがうはずだ。
しかも呪楔での追跡は、水が波紋を描くように、地下へ届くのに誤差がある。
(じゃあ本当の螢は今、どこにいるんだ……?)
感覚を研ぎ澄ませ。もっと強く、より深く。集中を高めていく。するとはたして、またあの甘い声が響いてくる。
――どうか螢、ありのままの俺を見て。俺も君を君のままで受け止めるから。
こいつ。また螢を口説いている。
憎たらしい昴の顔までは判然としなかったものの、心臓をどきどきさせている螢の鼓動はたしかに感じとれた。
(くそ、惑わされるな、螢。その優男から早く離れろ……!)
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