4 光輪君・昴《すばる》

6/17
前へ
/189ページ
次へ
 しかしどうやら(ほたる)はこの(すばる)(いざな)われて天霊門を通りぬけてしまったようだ。 まずい。戦慄(せんりつ)した。このままでは(ほたる)が本当に手の届かない(ところ)へつれさられてしまう。紫水(しすい)はまだ届かないのか。 (いや、待てよ。これは現在進行中の話じゃないかもしれない)  冷静になって考える。地下と地上、それに天では時の流れかたがちがうはずだ。 しかも(かしり)(くさび)での追跡は、水が波紋を描くように、地下へ届くのに誤差がある。 (じゃあ本当の(ほたる)は今、どこにいるんだ……?)  感覚を()ぎ澄ませ。もっと強く、より深く。集中を高めていく。するとはたして、またあの甘い声が響いてくる。  ――どうか(ほたる)、ありのままの俺を見て。俺も君を君のままで受け止めるから。  こいつ。また螢を口説いている。  憎たらしい(すばる)の顔までは判然としなかったものの、心臓をどきどきさせている(ほたる)の鼓動はたしかに感じとれた。 (くそ、惑わされるな、(ほたる)。その優男から早く離れろ……!)
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加