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――そうだよ、螢。俺はそのために伍宮に入って衛士になった。そして、ざっと百年は君を探していた。
なんのてらいも嘘もなく、男はしごく誠実にそう告げる。百年、だと。愕然とした。
なるほど。光輪君にとって俺は、あとから出てきて運命の女性をかすめとった邪魔者で、自分こそが螢の正当で唯一の男なのか。これが螢のもう一人の宿命の相手――。
胸をえぐられ、たたきのめされる。
いったいどういう風体をしているのだか、呪楔で男を見ることは叶わない。
だが、俺には無理だ。荒之王は、光輪君のようには正々堂々と生きられない。
(光輪君、昴。この世の創造主の昆孫にして、光と調和をもたらす神子、和之王か)
和之王と対をなす者として荒之王は在る。むこうが光ならこちらは闇。なにもかもが真逆で、相反する存在。
螢に呪楔を打った夜がちらと脳裏をよぎった。
――たたら、やだ、わたし、今夜のこと忘れたくない。
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