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また青龍か。くそ、ちゃちゃばかり入れて、紫水の弟でなければ殺してしまいたいところだ。
俺の思いを受けるようにして紫水が剣をかまえると、青龍も背中の大剣を抜いた。
二龍のかもしだす覇気は凄まじく、大気がびりびりと震え出す。
そもそも龍族は水を操るが、王の称号を持つ者同士が争えば、その威力は桁違いだ。
たちまち暗雲が垂れこめ、竜巻が起き、周辺の空域は大嵐となった。
――悪いな、凪。恩に着る。
しかし兄弟龍がそうやって熾烈な戦闘をくりひろげる間にも、光輪君は螢を抱いて天を滑空していってしまう。
その速さに震撼した――まるで流星のようだ。
雷天と言うだけあって、この速度は稲妻に等しい。まずいぞ。紫水と螢の距離が開いていく。
――ま、待って! 昴、紫水さまが、たたらを知ってるって! ねえ、わたし、たたらを助けなきゃっ、お願い、あそこに戻って!
必死に叫ぶ螢の声。
――だめだ、わからないのか。今あの紫龍に捕まれば、君は確実に死ぬんだぞ!
螢がどんなに懇願しても、光輪君はがんとして聞く耳を持たなかった。その態度から、なんとなくこの男の真意が読めてしまう。
(こいつは、紫水が螢を殺そうとしているなんて、本当は思っていない)
ただ瞬時に確信したのだ。そう言い含めて螢を手元に置くことこそが、今の最善策なのだと。
そして、その即断をすぐ対処に移した。
(さすがは輝光帝の継嗣……おそろしいほど頭が切れる)
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