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偽りの代償
「……永輝さん! 永輝さんってば」
婚約者である若草樹里の呼びかけに、考えごとをしていた永輝は、我に返る
「あぁ! ごめん。なんだったけ?」
「だから、これなんてどう?」
濃い色のスーツを押し付けてきた。
「いいんじゃあない?」
永輝は、樹里が見せてくれたスーツを見ながらいいんじゃないと返事を返す。
「……永輝さん? 私達が今日、なんでここに来たか分かってる?」
心ここにあらずの永輝の態度に樹里はイラっとする。
今日は、デパートに1ヵ月後に控えた、結婚式の報告を兼ねて、改めて樹里の実家に、二人で挨拶に行く事になったので、急きょそれ用の服を買いにきた。
「えっと……きみの両親に、結婚の報告に?」
「そうだよ! 明日、二人で私の両親に結婚の報告に行くんだよ! 解ってる!」
「ごごごごめん。けど、樹里? きみの両親には前に一度挨拶も兼ねて、一度言ってるよね? もう一度行く必要あるの?」
「あるに決まってるでしょ? 交際の報告と結婚の報告は全然違うの!」
そんな永輝の態度に、樹里はさらにイラッとする。
「……そうだよね? ごめん」
永輝は、樹里に謝りながらもまだ心ここにあらず状態。
そんな永輝に、樹里はイラッとしながらも、彼はもしかしていまでも、古閑美緒の事を愛しているのではないかと不安になってきた。
「……永輝さん。もしかしてまだ……」
「樹里!」
永輝は、スーツを手に持っている樹里を引き寄せ、唇を奪う。
そう、俺の元妻だった古閑美緒は、現在は…俺と付き合う前に、将来結婚の約束までしていた泉石渚の元へ行ってしまった。
そして、泉石渚は、美緒とこれからの人生を二人で生きていくために、自分の罪を償うために、自ら警察に出頭したらしい。
これに関しては、風の噂で聞いたレベルなので、本当かどうかは解らないが、きっと真実なのだろう?
泉石渚は、美緒の事しか見ていなかった。あいつの中心は、いつも美緒だけだった。
「ええええ永輝さん!」
永輝からの突然のキスに、樹里は、危うく服を落としそうになる。
だか、寸前の所で堪えた。
「若草樹里さん」
永輝からの突然始まった公開プロポーズに、樹里たちの周りに居た人客、それどころかスタッフまでもが、二人に視線を送ってきた。
だけど、永輝は、そんな視線を気にすることなく…樹里の前に膝間つく。
「僕は、一度、愛する人を自分の過ちで裏切ってしまいました。だからこそ、貴女の事も、もしかしたら裏切ってしまうかも知らません。それでも、僕は、貴方と未来を歩いて行きたい」
「……はい。私も、貴方と一緒に未来を歩いて行きたいです」
二人は、ここがデパート、そして、他人に見られている事をすっかり忘れて、唇を重ねあった。
(…美緒。俺は、樹里と一緒に生きていく。だから、お前も、あいつと幸せになれよ? 悔しいけど、俺は、あいつ以上に、美緒。お前を愛せない)
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